アリババのジャック・マーが提唱する『ニューリテール戦略』とは?

アリババの創業者であるジャック・マー氏が2016年に提唱した『ニューリテール戦略(新しい小売業)』。それは、『オンラインとオフライン』の融合を指します。

つまり、ネット創成期に生まれたAmazonや楽天などのオンライン・ショップは現実社会の店舗と融合してこそ、生き残れるという事です。

では、具体的な取組みについて見て行きたいと思います。

T mall スマートコンビニ

『 T mall (ティ・モール)』とは、アリババが運営するネット・ショッピングモールの事です。

彼らは、フランチャイズ方式で国内にある個人商店を取り込む事で、『 T mall』のリアル店舗を作ろうとしています。これは、最近Amazonなどがスーパー・チェーンなどの買収を行っている動きと同様に見えますが、遥かに先進的で斬新な計画なのです。

個人商店の活用

中国では大手コンビニチェーンに属さない個人商店が全国に600万店舗存在すると言われています。大手資本が拡大する中、伝統的な個人商店は苦戦を強いられています。

アリババは彼らに自らが保有する『ビックデータ』を基に徹底した分析を行い、『 T mall 』と同じ商品を、同じ値段で販売出来る実店舗の運営を任せたのでした。

驚愕の分析システム

その市場分析システムは、彼らが持つ膨大なビックデータに基づくものです。アリババは、自社で運営するスマホ決済アプリ『アリペイ』により、年間数百兆円もの購買データを保有しています。そこから、その地域に住む住人や通勤・通学者の購買データを抜き取り、オンライン・実店舗で何を購入したかの履歴を調べます。そこから、どのような特徴があるのか、を分析し、解析を行います。

つまり、ビックデータを活用して、この地域では何が売れやすいのか、をデータ解析して行くのです。それは、カテゴリーを一切、問わず、食品でも電化製品でも、何でも構わないのです。

最適なサービスの選定

最後に、商店主の属性、従業員の数、店舗の広さ、投資可能資金の量などを加味して、最適なサービスを選択します。つまり、『予算制約における効用の最大化』を計る訳です。

結果的に選択した商品は『 T mall 』を通じて必要なだけ仕入れる事が出来る仕組みです。

結果45%の売上増を達成

この高度に分析されたシステムを使用した事で、『 T mall スマートコンビニ』の1号店は45%の売上増を達成しました。また、仕入れに『 T mall 』を使用する事で、偽物や賞味期限がギリギリの商品を掴まされる事もなくなり、売れ残りリスクも低減出来るという『おまけ』まで付いてきたのです。

急増するスマートスーパー

中国では今、スマート・スーパーと言う業態が急成長しています。これは、アリババの提唱する『ニューリテール』の一環で、ITを活用した新しい買い物体験を提唱しています。

スマホで注文し、最短30分配送

現在、アリババを含む3社が同業態を運営していますが、通常の店舗販売同様、ネットでの宅配事業にも注力しているのが大きな特徴です。店によっては、その割合は全体の60%にも達し、半径3キロ以内であれば、無料で30分以内で配達します、というサービスを売りにしている店舗まで存在します。

(30分と言うのは通勤時間の平均値から算出されています。仕事帰りに買い物を行うと、丁度家に着くと同時に荷物が届く、という体験を提供する事で、重いから買い物を控えよう、という意識の低減を図るのです)

30分という時間を達成する為に、商品のピッキングに10分、配送に20分という規定を設けています。

注文が入ると専門の人間が店舗内から商品をピッキング。それを天井に引かれたレールでバックヤードまで運び、配送員に渡される仕組みになっています。

レストランとスーパーの融合

スマート・スーパーのもう1つの売りは店内での食事です。利用者は店内の生鮮食品の中から好きな材料を選んで店内の所定の場所に持ち込めば、それを料理してくれる。

また、料理を食べて、その材料をスーパーで購入して持ち帰る、というような使い道が可能なのです。

業態転換により売上は3.7倍に

この便利さが受けて、スマート・スーパーは急激に売り上げを伸ばしました。ある店舗では、面積当たりの売り上げが3.7倍にも達し、人気の高さが伺えます。

中国では、今『宅配』が1つのキーワードになっています。これは、オンラインとオフラインの融合であり、それぞれの良い所を取って垣根を無くそう、という取組みです。仕事などで忙しい時は、帰宅途中にスマホから注文し、週末はのんびり店舗でショッピングを楽しむ。

宅配が伸びると、店舗の面積当たりの売り上げが増える為、より効率的な経営が出来ます。これは小規模店舗の生き残る1つの術でもあるのです。

『外売』が変える外食産業

『外売』とは出前版のUber 『ウーバーイーツ』のようなサービスで、ライドシェアの派生ビジネスです。飲食店は出前の商品がある時にアリババが運営するアプリ『ウーラマ』に登録すると、配達してくれる訳です。

あくまで配達を専門とする業者ですので、どこの店の商品でも運ぶ事が日本の出前とは違う点です。

一方、購入者がアプリを開くとGPSの位置情報により、配達可能な店舗情報が現れます。その中から食べたい店を選び、注文を出せば数分後に配達される仕組みです。アプリ内で決済まで出来る為、面倒なお金の受け渡しも必要ありません。

店舗の立地にこだわる必要が無い

このサービスを利用するのは比較的低価格店がメインとなりますが、売り上げの軸が『外売』に移る事で、好立地の場所で店舗を維持する必要性が薄くなり、高い家賃や、内装工事などに伴う負担が軽減、それにより(一時的には)利益率の改善が進みました。

一方、客単価の高い高級店は立地の良いテナントが手に入りやすくなり、住み分けが明確になったのです。

競争が激化し、各社がより工夫が必要に…

固定費の減少により一時的に向上した利益率ですが、『外売アプリ』では全ての店のメニューが見れる事で、似た商品なら少しでも安い方が良い、という値下げ圧力が高まりました。

競争の激化は日本で言う『インスタ映え』の重要度を上げ、いかに商品を魅力的に見せるかがキモとなったのです。

外食文化の根付き

このような流れは外食産業の底上げを招き、所得の向上と共に中国社会に外食文化を根付かせつつあります。

ある世論調査によると、外売利用者の52%が自宅のキッチンを使う割合が減ったと回答し、35%の人がキッチンの無い賃貸アパートでも構わないと答えました。職に対し貪欲な中国人がここまで変わる事は驚きですが、確実に生活習慣が変わりつつあることは明かなようです。

ネットと現実社会の融合と言う流れは、益々激しくなっていきそうです。ネットの持つ膨大な商品から選べる利便性と実店舗が持つ即時性。この2つが融合する事で、より個人に適したサービスを受ける事が出来る。それを人工知能が可能にしつつあると言えます。

ただ、その事は私達の『プライバシー』の概念を必ず変えていきます。双方がトレード・オフの関係にあるなら、私たちは、その境界線を決める事が必要になってくるのではないでしょうか。