ニューリテール戦略の本質は在庫の最適化にある。

2016年に米ウォルマートを抜き去り世界一の流通企業となったアリババ集団。その創業者であるジャック・マー氏は同年、さらにその勢いを増す為の秘策を公開しました。その名も『ニューディテール戦略』。

これは、オンラインとオフラインを融合し、顧客にネットショッピングの選択肢の幅と、リアル店舗の即時性を兼ね揃えた買い物体験を提供するものと言えます。

 利用者にとっては、非常に利便性の高いシステムですが、これは同時に店舗にとって大量の在庫からの開放をもたらしました。

今回は、この『ニューディテール戦略』の詳細に迫ってみたいと思います。

・苦戦する小売業

小売業にとって2017年は非常に厳しい年だったと言えます。

日本でもトイザらスの倒産は話題になりましたが、その他にも『ジンボリー』、『ルー21』『ペイレス』『ラジオジャック』など挙げれば切りの無い小売業者が倒産に追い込まれました。その数はアメリカだけで1年間で6400店舗にも及びました。彼らを倒産に追いやったのはAmazonに代表されるEコマースの台頭だったのです。

これは、アメリカだけで無く先進国は同様の悩みを共有しています。どうすれば、ネット店舗と実店舗が共存できるのか?、その答えが『ニューディテール戦略』なのです。

アリババは業態ごとにその戦略を当てはめ、新しい小売業を次々と打ち建てました。その具体例について見て行きたいと思います。

・盒馬鲜生(ファーマーションシェン)

 

このブログでは過去何度も取り上げているアリババ傘下の生鮮スーパーです。

このスーパーの最大のウリは、半径3キロ以内であれば30分以内で無料で配達してくれること。実際に来店して商品を確認してから買っても良いし、店舗に行かずスマホを使ってネットショッピングで購入しても良い。

これにより利用者は重い荷物を抱えて家に帰る必要もないし、帰宅時間に合わせてスマホで注文し、家に着くと同時に商品を受け取る事で、時間の節約が可能になる。

店舗によってはネット注文が全体の売上の60%を超えており、店側は立地の制約から解放され、利益率向上に繋がるのです。

 

 

また、店舗中央部には巨大な生け簀が設置され、利用者は好きな食材を選ぶと、その場で調理してくれるサービスも行っている。勿論、魚介だけでなく新鮮な野菜や果物、精肉も同様である。このレストランサービスは好評で、利用者の来店動機の一翼を担っています。

 

このように、盒馬鲜生(ファーマーションシェン)は通常のスーパーでは無く、

  • 食品スーパー
  • レストラン
  • EC向けの倉庫
  • EC向け物流拠点

という4つ機能を有しています。

また、余談として一部店舗では深夜の営業も行っており、何とアダルトグッズの配達まで行っています。日本では生鮮スーパーが扱う商品として、有り得ませんが、30分以内の配達と、緊急ニーズが合致して好評をはくしているそうです。この辺りは、中国人の合理性が現れていて興味深い現象だと言えます。

・クルマの自販機

 

ガラス張りのビルにクルマがギッシリ。実はこれクルマの自動販売機なのです。

日本では、クルマを自販機で買うなんてあり得ないですが、アメリカなどでも実用化されているシステムです。

利用法を簡単に説明しますと、利用者は専用サイトでクルマを選び試乗の予約を入れます。予約時間に店舗を訪れると設置されたモニターの前に立ち、顔認識機能で本人確認を行います。

 

本人確認が済むとロッカーが開き、鍵が受け取れます。利用者は最大3日間試乗を行う事が可能で、気に入らなければ、そのまま返却すれば良い。

店舗には接客スタッフは存在せず、購入まで誰とも会わずに契約が出来るシステムです。開店当日には75秒で全てのクルマの試乗予約が埋まり、288台の高級車が売れた事で大きな話題になりました。

・More Mall(猫茂)

 

More Mall(猫茂)とは、アリババが経営する大型ショッピング・モールです。先でご紹介した盒馬鲜生(ファーマーションシェン)などのスーパーは勿論、様々な店舗が存在します。その中の何種類かを紹介していきましょう。

淘宝心選 (タオバオシンシェン)

日本の無印良品に近いコンセプトの日用品・家具などを取り扱う店舗になります。外国人デザイナーを積極的に登用し、新たなスタイルを提案している点が若い女性の層を捉えています。

スマホを介してのネット購入や配達も可能になっています。

 

・Tmallスマートコンビニ

 

中国では大手コンビニグループに属さない個人商店が600万店存在すると言われています。マー氏は、同社が持つ『ビックデータ』を利用して、それらの店舗を活性化する策を考え付きました。

彼らが持つ『ビックデータ』とは、中国で最大のスマホ決済アプリ『アリペイ』から得られる周辺住民の購買データです。そのデータから、周辺住民が過去にオンライン・オフラインを通して、何を購入しているかのデータを分析して、その消費行動を分析します。

そして、次に店舗のオーナーの属性、従業員数、店舗の広さ、投資可能額などを加味して最適な取扱い商品を選び出すのです。商品の選定が終わると、それをアリババが運営するネットモールのT-MALLから仕入れ、ネットと同価格で店頭に並びます。

このような施策から1号店は初月から45%もの売り上げ増加を実現し、現在急激に加盟店を増やしているのです。

・HomeTimes 家時代

 

VR(仮想現実)を積極的に活用したマーケティング手法を取り入れるホームセンター。

例えば、衣類ならバーチャル試着室を完備し、写真に写った自分の画像に試着する服の映像を組み合わせる事で、試着の手間を省ける。

また、家具などでは自分の部屋の写真を取り込む事で、同様の処理が可能。

この店舗での最大の特徴は、実店舗ながら購入はネットを通じて行う点にあります。これにより利用者は商品を持ち帰る手間が省け、店側は無駄な在庫を抱える必要が無くなります。

また、商品は店舗を介さず仕入れ先からエンドユーザーに直接送られるシステムになっており、店側は配送の手間から解放されるのです。

 

・『ニューディテール戦略』のポイント

  • オムニチャンネルの実現
  • ロジスティクスの活用
  • ビックデータの活用

この3点を用いて在庫の適正化を図ることが『ニューディテール戦略』の核心だと言えます。

そして、ここで大事なのはオンラインと実店舗での価格を同等に設定する事です。

日本では多くの場合、ネット価格の方が安い為、実店舗で商品を確認して、帰ってからネットで注文するという消費行動が一般的になっています。これでは、実店舗の小売業は衰退するばかりで、本当の意味のオムニチャネルは実現しません。

 

アリババ集団は、プラットフォームの構築に長けた企業でAmazonとはその戦略が異なります。その為、在庫を最小限に抑える事が可能で、それこそが強みなのです。

彼らはその『プラットフォーム』と『ビックデータ』という武器で短期間の内に急成長を成し遂げました。その手法がスタンダードになる日も、もしかして遠くないのかもしれません。