オムニチャネルの最先端を行くフーマー・フレッシュ(盒馬鮮生)は何が凄いのか?

現在、世界中の小売業がネットと実店舗の融合を目指すオムニチャンネルの実現に奔走しています。そんな中、最先端を行くのが中国のアリババ集団が展開する小売りスーパーである『フーマー・フレッシュ』です。

今回は、彼らの驚くべき実態と、いかにして、それを作り上げたのか?という点について見て行きたいと思います。

・注文後30分以内の配達を実現

彼らの最大の売りは、店舗の半径3キロ以内であれば、スマホで注文後30以内に自宅や職場に商品を届けてくれる機動力です。現在、Amazonなどは一部地域で2時間以内の配送などを行っていますが、フーマが30分という時間に拘るのは、それが『待ってられる』時間だからです。

これが2時間になると、食事に行きたくなったり、シャワーを浴びたいのに出来ない、という顧客の『悪い体験』として記憶に残ってしまいます。しかし、30分であれば、商品が届く可能性のある時間帯は20~30分後、即ち10分間位の拘束時間で済むのです。これであれば、時間を有効に使う事が出来ますし、『便利さ』だけを実感させる事が出来ます。

では、果たしてどのようにして30分という時間を実現しているのでしょうか?

 

フーマーの店舗は、実店舗としての役割と、配送拠点という2つの顔を持ちます。店内には50人にも及ぶ商品のピックアップ要因が配置されています。彼らは注文が入ると店内の商品棚からオーダー商品を専用袋にピックアップします。それが終わると、天井に配置された専用リフトでバックヤードへと運ばれるのです。

バックヤードには、自前の配送員が待機しており、そのまま配送に向かいます。
非常に効率的なシステムですが、デメリットとしては配送を内製化しないといけない為、多くの人件費を必要とします。そこで、フーマー・フレッシュでは必ず1日5000件の注文を取る、という事を徹底しているのです。

その為には、来店しているお客さんの商品を配達に誘導するなど、かなり強引な手法も用いました。顧客はこれにより手ぶらで家に帰る事ができ、帰宅すると同時に商品が家に届きます。顧客は実際に店舗で商品を手に取って確認している為、便利さだけが記憶に残るのです。
こう言った体験から次回からはスマホで注文して配達して貰う、という顧客がどんどん増加し、現在では売り上げの50%以上がネット注文、坪当たりの売上単価は通常店舗の3.7倍を達成しました。

・ビックデータを用いた情報戦略

フーマー・フレッシュは会員制のスーパーになります。
その為、利用するには専用のスマホアプリから会員登録を行います。これは、そのままアリババが運営するスマホ決済アプリの『アリペイ』に紐づき、どの顧客が、いつ、何を買ったのか?という情報を得る事が可能になるのです。これはPOSシステムよりも特定の個人と購買情報が紐づく為、高い精度の情報だと言えます。

この膨大な情報を分析する事により、かなり精度の高い需要分析が可能になり、売れ残りなどの商品ロスを減らす事が可能です。

アリババの持つ最大の強みは自社が運営するスマホ決済アプリ『アリペイ』から得られるビックデータです。こちらのアプリは既に中国国内の7億人の人間が使用しています。

また、同社が運営する『タオバオ』や『T-MALL』などのネットショッピングサイトを含めると、アリババには大多数の中国人の購買情報や職業・年収・家族構成などの情報が高精度でもたらされます。この情報はフーマー・フレッシュの新規出店の立地選びにも活用され、『成功しそうな地域』にのみ進出する事を可能にするのです。

生鮮食品はEコマースと非常に相性が悪いと言われてきました。それは、実際に目で見て商品を選びたいという欲求が強く、おまけに、それぞれの配送拠点に冷蔵設備が必要な為、配送コストが掛かります。

フーマー・フレッシュでは、実際に商品を手に取って確認でき、また望めばその場で調理して食べさせてくれるレストランまで完備されています。その上、店舗を配送拠点とする事で、そのデメリットを消し去る事に成功したのです。

多くの配送員を抱える必要がある為、人件費の安い中国だから可能と言う見方もありますが、レジをセルフ化したり、電子決済でお金のやり取りを無くすなど、本当に必要な所に集中して人員を配置していると言えます。

この手法で既にフーマー・フレッシュは独り勝ち状態を維持しています。新しいビジネスモデルが出来ると、直ぐに模倣されてしまう中国でも、1日に5000人ものオンライン注文を取る事は容易ではないのです。

しかし、中国のビックデータの活用には驚かされます。もともと、個人のプライバシーへの関心が薄いという面はありますが、一企業がこれだけの情報を自社で収集でき、尚且つ人工知能を用いて最先端の解析を行っている例は世界を見渡しても類を見ません。

それには、電子決済が大きな役割を果たしているのですが、この手法はビジネスの在り方を激変させました。それが現在、中国で起こっているアリババとテンセントという2代巨頭による経済の覇権です。

 日本を含め欧米では、過去の財閥経営の反省からシナジーの発揮できない『多角化』は敬遠されてきました。しかし、中国では『情報』をコア・コンピタンスとした経済の多角化が進行しています。アリババにしてもネットショッピングからコンビニ、宅配、小売りなど一見無関係とも思える業界に次々と進出しています。

つまり、彼らの強みはビックデータの解析により業種に拘らず、地域に最適化したビジネスが展開できる点にあるのです。

 この事は、『情報強者』が全てを得る、という時代の到来を予見しています。即ち、人工知能は業界の壁を無くし、全ての企業がライバルと成り得る事を証明しているのです。
この流れが世界の潮流となるとは限りませんが、今が大きな変革期になる事はほぼ確実と言えます。
(実際、世界的に自動車業界では似たような事例が散見されます。テスラ、ダイソン、グーグル、アップルなどの異業種が次々と参入してきています。EV化という要因も大きいですが、『自動運転』という自動車のAI化が大きな要因となっている事は確かです。)

 その意味で、中国の動向は注意して見守る必要があると言えるのです。