小売業の衰退は、本当にAmazonだけが原因なのか?

 

最近、アメリカではトイザらスやシアーズなど、多くの小売業の倒産が取りざたされています。そんな中、必ず言われるのが『Amazonエフェクト』です。Eコマースの台頭により駆逐されるリアル店舗という位置付けです。

一方に於いて、Amazonに代表されるEコマース企業は、次々とリアル店舗の展開と買収を始めています。この一見、矛盾した現象が同時進行する現代において、小売業の実情を見て行きたいと思います。

132年の歴史を誇る米国大手百貨店シアーズの歴史を紐解くと、非常に興味深い事が分かります。

創業当時、鉄道と馬車が主な交通手段として使用されていた時代、買い物は非常な労力を必要とする行為でした。そんな中、店舗に行かずにカタログで選んだ商品を配達して貰える、そんな買い物体験を提供したのがシアーズの始まりでした。
そう、まさにシアーズは現代のAmazonそのものだったのです。

その後、モータリゼーションの時代を予見し、大駐車場を完備した郊外の大型百貨店へと変遷し、現代に至ります。

今回のシアーズの事実上の倒産を受けて、意外に感じたアメリカ人は少ないと思います。CNNを含め、多くのメディアはAmazonに代表されるEコマースの台頭を理由に挙げていますが、個人的には、シアーズは単に、『顧客の求める物を提供出来なかった』為に倒産したと考えています。

・未だ1割にも満たないEコマースのシェア

現在、Amazonの牙城のアメリカでも15%、日本に於いては5%、と言うのが、小売業界におけるEコマースのシェアです。この事は、未だ8割以上の人がリアル店舗で買い物をしている事が分かります。
誤解の無いように断っておきますが、私はEコマースの影響を過小評価している訳ではありません。

多くの人にとって買い物はレジャーという側面を持っています。見た事が無い商品や新しい機能を発見するワクワク感や高揚感はリアル店舗特有の物と言えます。

Eコマースの場合は、殆どの場合において店舗でいう『目的来店』がメインで、一直線で目的の商品に到達する為、ついで買いなど、消費を刺激する要素は少ないと言えます。その際に求めるのは、価格と効率性であり、本当に大事な買い物は、自分の目で見て、触ってから買いたいという欲求は誰しもが持つものだと言えます。
テクノロジーがいくら進化しても、その本質だけは忘れてはいけないのです。

では、近年の小売業の苦境は何が原因なのか?
個人的に2つの仮説を立ててみました。

・小売店舗の供給過剰。

1990年台に入り、全米では何百ものショッピングモールの建設が行われました。
しかし、その後に起こったリーマンショックなどにより景気は悪化、歩調を合わせるように積極出店を進めていた大手小売業は苦境に立たされることになります。

調査会社モーニングスターの調査では、アメリカにおける1人当たりの小売面積は2.2㎡と最も大きく、カナダの1.5㎡、オーストラリアの1.0㎡と続きます。これは、必要量における2~3倍の供給量で、適正とされる2006年の水準に戻すには、各社とも多くの合理化が必要だと言えます

この資料を見るとシアーズは、およそ43%の余剰店舗を持つ事が分かります。
この事は、業界全体の共通した問題であり、既に全米の1/3近くのショッピングモールは廃墟と化しているのが現状だと言えます。この状況にさらに拍車を掛けるのが大手小売業のモールからの撤退です。集客の要となる大手の撤退はモールの価値を著しく低下させるのです。

結局、過剰出店を繰り返したシアーズは、テナントを埋める事が出来ず、空き店舗が目立つ状態に陥ります。この事は、さらに来店客数の減少を招き、負の連鎖が加速、ついには店舗のメンテナンスも滞る事になり、床はゴミだらけ、雨漏りなどが発生。

店頭も人員を削減する事で人手不足となり、荒れ果てて行きます。下の写真は閉店セールの際の後継ですが、その混乱ぶりが見て取れると思います。

・無理な経営判断

これは、上記の話とも重なりますが、経営判断の失敗も大きな要因と言えます。

シアーズの会長兼CEOのランパート氏は、ゴールドマン・サックス社を経て、自らのファンドを立ち上げた投資家で、小売業の経験は皆無でした。
彼には『カスタマー・サービス』という概念は無く、いかにコストを掛けずに店舗運営を行うか、という意識しかなかったのです。その為、店舗の清掃などに掛かるメンテナンス費用は削減され、必要な時に店員が捕まらないと言う状況になりました。
百貨店とはそもそも、価格は高くてもきめ細かなサービスで付加価値を提供する物。顧客視点を失った店舗では顧客が離れるのは当然です。

また、もう1件の破綻先であるトイザらスも2005年に行った買収劇が主な原因だと言わざる負えません。
この年に複数の投資会社が構成するプライベート・エクイティ・ファンドにより同社は買収されたのですが、その際LBOという手法が用いられました。この手法は、買収先の資産を担保に資金を調達すると言う、ある意味無茶苦茶な方法です。
(まだ買ってもいない他人の資産を担保にお金を借りる訳です。)

この手法を用いると買収後、その負債が全て買収先企業が負担する為、バランスシートが急激に悪化してしまいます。頭打ちする売り上げの中、支払利息に耐えられなくなった同社は、破綻しました。

これも無能な経営者が招いた人災と言えると思います。

・徹底した顧客志向が活路を拓く

Amazon・アリババという2大巨頭に共通して言える事は、その急成長に陰りが見えてきた、という点です。その焦りが、彼らをオムニチャネルへと走らせます。

今の既存の小売業は、彼らの土俵に引きずり込まれて相手のルールに沿った戦いを強いられているように感じてしまいます。それは、効率性の追求であり、いかに買い物の手間を省くか、という視点です。このルールで戦う以上、決してAmazonには勝てません。そこでは資本力が物を言うからです。

既存のリアル店舗が生き残るには、それ以外の価値を提供する必要があります。それは、レジャーの側面の買い物であったり、不確実性だと思います。Eコマース企業は人工知能を駆使して『売れる商品』をラインナップします。しかし、そこに意外性や高揚感は存在しません。ただ便利なだけのコンビニのような存在です。

多くの人にとってコンビニでの買い物は便利だけど、『楽しくない買い物体験』です。
一方、地方のスーパーなどに行くと、ちょっとしたワクワク感を感じる事が出来ます。それは、地元特産の魚屋野菜にとの出会いを期待するからです。

これからの小売業は、この部分を更に磨く必要があります。そして、自らが決めた対抗軸で戦いを挑む事。同じ土俵で戦っては、資本の原理と言う壁は決して超える事は出来ないのです。