物やサービスの値段を人工知能が決める時代に…。

ダイナミック・プライシング(動的価格設定)という言葉を聞いた事があるでしょうか。これは、過去のデータを基に、季節や曜日、時間と言った事象ごとに需要と供給を割り出し、物の値段を変える手法を指します。
分かりやすいところでは、旅行業などでは昔から夏休みやお正月には飛行機やホテルの料金が上がったり、オフシーズンには安くするという手法が取られてきました。この経営戦略として非常に重要な価格の設定を、人工知能で行おうとする動きが広がりつつあるのです。

オランダのロッテルダムのガソリンスタンドでは、1日に多い時は何十回もガソリンの値段が変動します。これは、競合店の価格や、人が許容する価格帯など、過去のデータを分析する人工知能ソフトによって算出されます。
例えば、昼の時間帯だと、少しでも安いスタンドを探そうとする利用者も、朝の通勤途中なら少々高くてもガソリンを入れるかもしれません。要は時間や状況によって許容できる価格は変動するのです。

人工知能を使った価格設定が人気を集めるのは、多くの小売事業者が利益率の低いビジネスに苦しんでいる、という背景があります。こうした小売業者は今、オンライン業者との価格競争激化にも苦しんでいるのです。
このような状況から現在では、様々な分野で人工知能による価格設定が行われています。これには販売実績や在庫状況だけで無く、イベントや天候、競合やSNSなどのビックデータと掛け合わして、最適価格を瞬時に決定します。

アメリカのスポーツ業界では、数年前から、この人工知能を用いた値付けが行われています。以前は、スポーツ観戦のチケットは一律価格が普通でした。
現在では、市場環境や試合の価値を数値化する事で、統計学に基づいた価格決定が行われています。具体的には、試合のカード、天候、見やすい座席、曜日から、はたまた試合の先発投手によっても値段は変わります。それら全てを数値化し、顧客の満足度と収益性が最大化する価格を決定するのです。

実は、これと同じ手法がAmazonなどのEコマースでも使われているのをお気づきでしょうか。彼らは、競合や需給に応じてリアルタイムで価格を変えています。その為、以前買った商品を再度購入する場合は、価格を確認しないと、大きく変動している場合が良くあるのです。
事業者側からすると、状況に応じて利益を最大化出来る人工知能は非常に有効だと言えますが、運用に失敗すると大きく信用を失墜する事にも成りかねません。

運用の失敗例としては、フロリダ州で最大限のハリケーンの到来が予想された際、Amazonが世間の厳しい目に晒されました。
この天災により緊急物資の価格が急騰すると判断した人工知能が価格を吊り上げてしまったのです。その為、水の値段などが普段の3倍以上に急騰しただけでなく、ある利用者によれば『急配』の送料が180ドルに設定されている事例まで発生してしまいました。

人工知能が価格を決める際は、サイト上の類似商品の価格を見渡して決定します。その為、一つのサイトが値上げすると最終的には全てのサイトに影響を与えてしまう事になります。
当然だが、アルゴリズムに感情は無く、大災害も理解していない。では、どの時点で価格の決定権を人間が取り戻すのか、今は明確な規定が存在していないのです。

企業のトップは、その事が、企業価値やイメージを一瞬で破壊してしまう危険性を内包する事を、自覚する必要があるのです。