『芝麻信用』の功罪。信用スコアは人間を幸せにするのか?

『芝麻信用』とは、中国のアリババ集団が展開する、個人の社会信用度のスコアリング・サービスである。

ITの進化により、決済など消費者のあらゆる行動をオンラインで記録して、管理出来るようになって来た。スマホを使用したQRコードによる決済の浸透で、個人のお金の動きが可視化出来るようになって来たのだ。
その購買データを基に、個人の信用度をスコア化する事により、ローンの審査は勿論、ホテルやレンタカーを借りる際のデポジットなども個人の信用度に応じて対応が変わって来る。

そもそも中国では、銀行システムの未整備により個人の信用情報システムという物が存在せず、そのことが、経済に於いての取引コストを大きな物にしていた。お金を貸す際に参考に出来るデータが存在しないのだ。これを円滑に進める為、政府主導で進められた政策が後押しする事で出来たサービスと言える。

このサービスの普及により、中国経済は各段に効率化が実現したと言える。
個人の信用度が可視化出来る事で、今まで掛かっていた審査やデポジットの回収という業務が大幅に低減すると共に、信用度の高い人には積極的に資金が集まるような仕組みを構築できたのである。

ただ、このスコアの精度を上げようとすると、出来るだけ多くの情報を集める必要がある。実際、芝麻信用ではSNSでの交友関係なども加味されており、ネット上で影響力のある人物にフォローされると信用スコアが上がる、という指標まで存在するのである。

この一見、非常に便利な『芝麻信用』であるが、プライバシー面での問題も無視出来ないのである。

人間にとってお金の情報とは、その人の全てと言っても過言では無い。

その人のお金の使い方を見る事で、趣味・趣向や家族構成、年収や社会的地位、また、いつ・どこでお金を使ったというデータを見ると、その人の行動範囲や現在位置まで把握する事が出来るのである。
それらの情報は、個人の信用度を計る上で無視できないデータと言えるが、そこまで加味される事は、『監視社会』の到来を意味するのである。

中国では、既にこの問題が顕在化しており、例えば裁判所での罰金未納付の情報がアリババと共有されていたり、公共の場所で騒ぎを起こした場合、刑罰には問われなくても、信用情報が大きく下がると言う運用がされている。これにより政府を批判したジャーナリストが、信用スコアを大きく下げられるという事件まで発生している。

また、芝麻信用の開発チームを率いるリーダーのインタビューでは、『1日に10時間もネットゲームをしていれば怠情な人間と見なさられるだろうし、頻繁にオムツを買っていれば、良い親と思われるだろう。前者は後者と比べて低いスコアしか得られないかもしれない。』という発言をしている。
このような、行き過ぎた運用は社会的差別を生む出すだけでなく、世の中に、息苦しさをもたらす事になるのである。

最近、日本でもソフトバンクが『Jスコア』という同様のサービスを始めました。
このシステムは、上手く運用すると非常に便利で有益な物となりますが、その線引きが非常に難しい物と言えます。即ち、融資での焦げ付きを減らすには情報精度を上げる必要がありますが、どこまでの情報を加味するか、という問題は、プライバシーに大きく関わって来るのです。
特に、人工知能が活用する現代では、AIがネット上にある個人情報を収集し判断を行うという事が、現実になりつつあるのです。

社会が便利になるという事は、今までの『マス』のサービスから『個』のサービスへの変遷を意味します。即ち、一辺倒のサービスから個人のニーズに合わせたカスタマイズされたサービスの提供です。しかし、それには個人情報の存在が不可欠なのです。
つまり、便利さと個人情報の保護と言う観点は、相反する位置に存在するのです。私達は、法整備も含めその境界線を明確にする必要があるのです。