中国の人工知能技術を牽引する企業・センスタイム


2017年12月、日本の大手自動車メーカーHONDAの子会社である本田技術研究所が中国の人工知能技術大手のセンスタイムと提携を行う事を発表しました。

センスタイムという企業は日本では、あまり知名度は有りませんが、人工知能分野、特に画像解析の分野では中国を代表する企業と言えます。

中国政府は現在、国を挙げて人工知能技術の先進国となるべく戦略的な投資を行なっている。そこで5つの分野に於いて、それぞれ企業を選出して、そこに重点的な投資を行う政策を採用しているのだ。

・アリババ   スマート・シティ分野
・テンセント  医療診断分野
・バイドゥ   自動運転分野
・iFLYTEK (アイ・フライ・テック)  音声認識分野
・センスタイム  画像認識分野

そこで、BAT3社と共に選ばれたのが、センスタイム社である。
では、センスタイム社とは如何なる企業なのか?、まずは、その生い立ちから見て行きたいと思う。

・創業4年で企業価値は30億ドル超へと急成長したセンスタイム

センスタイムは2014年に、香港中文大学で博士号を取得した若き研究者 徐 立(シュー・リー)と18人の大学教授達により創立された企業である。

彼ら大学研究者らの転機となったのは、2014年に彼らにより公表された1つの論文であった。
それは、ディープラーニング技術の活用により、人工知能の画像解析能力が、遂に人間の能力を超えたのだ。
この論文を発表すると、直ぐにベンチャーキャピタルから事業化のオファーがあり、会社設立へと動き出す事になる。

最初のクライアントは、中国で勃興していたオンラインの消費者金融企業達だった。
融資のプロセスには、ウェブ経由で送られた身分証明書と、本人の写真を照合する作業が欠かせない。その作業を自動化出来るセンスタイムの技術が重宝され、様々な企業からの依頼が殺到したのだ。

そして、2014年に開催された世界的画像認識コンテスト『ImageNet』では、グーグルに次ぐ世界2位、そして翌年にはグーグルを抑え世界1位の称号を獲得する事で、その地位を確固たるものとした。
現在では、様々な分野の企業、政府を含む400社との取引を行い、急成長を続けているのだ。

彼らの事業領域は非常に広く、前述の自動運転だけで無く、セキュリティや、無人コンビニなどで活用される顔認証、そして、マーケティングの分野にまで多義に渡る。

一言で顔認証と言っても、実はかなり奥が深い。
例えば、中国で利用される身分証明書の更新期間は20年にも及ぶ。つまり、写真の本人確認を行う場合、加齢に伴う変化も考慮しなくてはならない。その為には、人間が年と共にどのように顔が変化するのか人工知能を用いて推測する必要があるのだ。

また、センスタイムの技術は中国の公安が採用する1億7000万台ものカメラを用いた監視システム『天網』にも採用されている。

これは、監視カメラに映った人物を、中国政府が有する顔データベースと照会する事で、数秒で個人の身元を特定出来るシステムである。その照会スピードは、毎秒30億回と言われ、BBC放送が実験した際は、僅か7分間で身柄を拘束されたという恐るべきシステムである。中国では、街中の至る所に監視カメラが設置されており、決して逃れる事が出来ないのである。

このように、国民の権利(意識)が脆弱な中国でこそ発展できた技術、という負の側面も有しているのである。

私は常々、人工知能分野では米国は中国に勝てないと主張しているが、それは技術面と言うよりは、このプライバシーに関わる法制度の問題が大きい。
人工知能には、この人間のプライバシーに起因するビックデータが不可欠であるが、これには常に法的問題が関わって来る。

一方、一党独裁の中国では謂わば『鶴の一声』で物事が進行して行くのだ。
これは、付帯する問題を解決しながら進まなくてはならない欧米諸国との間には、歴然としたスピードの差が生まれる事を意味する。
このスピードの差は、競争に於いては致命的と言えるのだ。

孫正義氏が、『これからは、全ての産業は人工知能により再定義される。』と主張するように、この流れは不可逆な物と言える。我々に出来る事は、この流れを前向きに捉え、その活用を推進して行く事だと言えます。

ただ、忘れてはいけない事は、『技術とは、人を幸せにする為に存在する』、という当たり前の事を忘れない事に有ります。その為の法整備の問題など、早急に対応しなくてはならない問題は山積していると言えるのです。