テスラが上海に新工場の建設を開始。生死を掛けた戦いへ。

外資単独出資の自動車工場が、中国・上海で初めて誕生する。
その企業は、イーロン・マスク氏率いるアメリカのEV自動車メーカー『テスラ社』だ。

同社にとって、米国外では初となる新工場は、総工費20億ドルを掛けて建設される。
この工場は、自動車用電池と車体の組み立てを同一の敷地内で製造する『ギガ・ファクトリー』で、当面は、同社のエントリーモデルと位置付けられる『モデル3』を年間25万台、そして将来的には、この数を倍の50万台にまで高める計画でいる。
これは、現在アメリカで製造されている5倍の数値で、将来的に中国が同社の主戦場となる事を暗示していると言える。

新工場の建設費用は、中国の金融機関からの融資で賄う計画であるが、財務体質にまだまだ不安がある同社が、このタイミングで中国での生産を決断したのは、米中貿易摩擦の進展により、40%もの関税を掛けられた事が契機となったと言える。

現在、世界中で生産されるEVの約6割は、中国で販売されている。これは、排ガスによる大気汚染により、中国政府はガソリン車へのナンバープレート配布を制限する一方、EV車には、優先して割り当てているという事情がある。

2017年には、1万5000台のEVを製造した同社であるが、その内の約2割を中国で販売しており、その数は年々倍増している。

また、具体的な企業名は公表されていないが、テスラ社の主力製品『モデル3』の心臓部である車載コンピュータは、中国から調達されている。現在、対中制裁の影響で、これに25%もの関税が掛けられており、同社の収益を圧迫しているのだ。
仮に今から仕入れ先を変更する為には、新たに製造ラインの変更と、従業員への再教育が必要になり、それには1年半の歳月が必要だと言われているのだ。

自動車業界は、比較的今回の貿易摩擦で大きな影響を受けているセクションだと言えるが、その中でもテスラの抱える問題は甚大と言えるのだ。

・中国で急速に増えつつある新興EVメーカー

昨年9月、ニューヨーク証券取引所に、『中国版テスラ』と呼ばれる新興企業『 NIO 』が新規上場を果たした。

現在、中国では487社ものEVメーカーが存在していると言われている。
この業界での生存率は、僅か1%と言われており、壮絶な競争が繰り広げられているのである。

ここでは、その中でも有力な4社をご紹介したい。

・ Byton (バイトン)

バイトンは、今年の家電見本市CESで、コンセプトカー『 M-Byte 』を披露した。

同社の創業者は、BMW社でEV部門を率いていたカーステン・ブライトフェルト氏と、日産の高級車部門『インフィニティ』の中国市場の責任者であったダニエル・キルヒャート氏である。その他にも、ルノー・スポール、BMW、グーグル、テスラと言った企業の自動運転部門出身の幹部が顔を揃える。

彼らは、僅か創業2年という短期間で完成度の高いモデルの開発に成功、そして、販売に漕ぎ着けた事で、世界を驚かせました。
価格は、テスラのエントリーモデル『モデル3』と同等の4万5千ドルですが、車格はテスラの最上級のモデルSと遜色ない設計となっており、強力な価格競争力を有している。

車両デザインも、欧州の有名デザイナーによって設計されており、一流メーカー同等の品質と高級感があり、今、最も話題の企業の一つと言えるのである。

・ Xpeng (シャオペン)

今年のCESでは、小型SUVのコンセプトカー『 G3 』を披露。
アリババやフォクスコンと言った有力企業から、既に3億5千万ドルを調達しており、今年中に総額15億ドルの調達を計画。豊富なスポンサーを得て、シリコンバレーに支社を開設するなど、急速に人材の採用に動いている。

2019年中旬にも、第1号車の納車を予定しており価格は3万8千ドル~。

・ Lucid  (ルシッド)

事業の拠点は、米国のカルフォルニア州に置いているが中国資本である。
昨年のロサンゼルス・モーターショーでは、『 Lucid Air 』というコンセプトカーを出品しており、サウジアラビア系ファンドから10億ドルの資金調達が噂されている。

同社は、高性能モデルの製造販売に特化しており、時速100㎞までの加速が2.5秒、最高速度320㎞、そして1回の充電で最大640㎞走るモデルを開発中。

・ファラデーフューチャー

コンセプトカー『 FF 91 』は1050馬力を発生する『ウルトラ・ラグジュアリーEV』を目指している。販売価格は18万ドル~としており、生産拠点をカルフォルニア州に持つ。

・中国市場でテスラに勝算はあるのか?

米国では先駆者利益を享受し、競争に晒されてこなかったテスラ社だが、中国市場では、そう簡単ではない。
テスラにとっては、初めての海外生産でありサプライチェーンを初めから構築する必要があるのだ。
また、昨年同社を苦しめた生産体制も、当初の目標からはかなり遅れていると言える。

ただ、やはり最大の不安要素は政治リスクだ。
進展する貿易摩擦は、反米意識を巻き起こし、不買運動に発展する気配すら存在する。
また、テスラ自身がアメリカの『象徴』として、中国政府からの嫌がらせや、最悪イーロン・マスク氏の身柄拘束という事態も、ファーウェイ問題の進展次第では、完全には否定できない状況だ。

その他の問題として、『人材』だ。
ここ数年、テスラ社では10人を超える経営幹部の退職が続いている。
このような状況では、万全と言えない米国市場と中国の市場をマスク氏が掛け持ちで経営に当たらなければならない。

ハードワーカーで知られる同氏だが、この距離の問題だけはどうにもならない。

今回の中国新工場着工のニュースは、ある意味マスク氏にとって悲願であった。
しかし、その事に一抹の不安を感じるのも確かである。

今回の米中貿易戦争は、マスク氏にとって経営戦略の見直しを迫った事は、恐らく事実だと思う。
まだ、国内の経営基盤が定まらず、この先の景気の落ち込みが予想されるタイミングでの中国進出は、かなりのリスクが存在する。
その上、トランプ大統領、習近平国家主席の両方を敵に回す恐れさえあるのだ。

不屈の男で、数々の困難を乗り越えてきたマスク氏は、世界を代表する稀有な経営者だと言える。
まさに今回の『掛け』が、彼の人生最大の勝負と言えるかもしれないのである。