『究極の自己満足』を追求する孫正義氏の死生観。

私が尊敬する経営者は誰か?、と聞かれれば、必ず挙げる2名がいます。
それが、孫正義氏と豊田章男氏です。

この2人は、まるで真逆のように見えます。
在日韓国人の貧しい家庭に生まれ、差別と偏見に晒されてきた孫氏と、名門の豊田家に生まれ、母親は三井家と言う、まるでフィクションのような御曹司。バックボーンも性格も全く違う二人ですが、社会の『偏見』(真逆の偏見ですが…)と戦ってきたのです。

廻りから不可能と言われながら、それを覆えしてきた孫正義氏と、勝つ事が当たり前と言われ続ける豊田章男氏。共に困難を乗り越えて来た彼らからは、様々に学べる事がある筈です。

豊田氏については、また日を改めてるとして、今回は、孫正義氏にスポットを当ててみたいと思います。

彼の人生は、人を飽きさせません。
当時通っていた大学の教授を出世払いで雇って、電子辞書を作り上げた話や、仕事に熱中し過ぎて、自分の結婚式をすっぽかすなど、逸話に溢れているのです。

彼のビジネスの世界に足を踏み入れたのは、まだカルフォルニア大のバークレー校に留学中の事でした。先にも述べた通り、当時のバークレー校は、ノーベル化学賞を受賞した教授など、多くの『知の巨人』が存在した。一介の学生である彼が、教授を、それも出世払いで雇うという桁違いな発想で、電子辞書を開発した彼は、それをシャープに売却して170万ドルを手にします。

また、日本でのインベーダー・ゲームブームの終焉により、大量に余ったゲーム機をアメリカで販売。130万ドルと前述の170万ドルで、一気に300万ドルを手にして、ビジネスの軍資金とするのでした。

大学卒業後、日本に帰国した彼は、コンピューター・ソフトの販売に乗り出します。
僅か数日で、資本金を使い果たすなど、破天荒なビジネス・プランを打ち出す彼でしたが、当初は苦戦するも、ジョーシン電機との取引でビジネスの足場を確立して、急成長に繋げたのでした。

・ジョブズは、なぜ孫正義に日本独占権を与えたのか?

彼の人生の転機は、ボーダフォン・ジャパンの1兆8000億円と言う巨額の買収劇だと言えます。

この無謀とも言える買収劇にも、彼には確かな勝算がありました。
その1つが、『iPhone』の日本での独占販売権でした。実は、孫氏はボーダフォンを買収する前に、ジョブズとの間で既に独占契約を結んでいたのでした。

話は『iPhone』が発表される2年も前に遡ります。
既にモバイルキャリアへの進出を決めていた孫氏には『武器』が必要でした。
何処からか、iPhoneの開発の噂を嗅ぎつけた孫氏は、単身アメリカのジョブズのもとを訪れます。

彼に電話をかけ、会いにいきました。モバイル機能を加えた iPod のちょっとしたスケッチも持って行って、ジョブズに渡しました。

するとジョブズが「マサ、君のスケッチなんかくれなくてもいいよ。僕には自分のがあるから。そんなひどいのは要らない」と(笑)。
私は「ひどいスケッチなんか渡す必要はないんだけど、あなたの製品が完成したら日本用に私にください」と言いました。すると彼は「マサ、君はクレージーだ。まだ誰にも話してないのに、君が最初に会いにきた。だから君にあげよう」と。

                                    孫 正義

これだけの内容が、1日で決まった事には驚かされますが、孫氏は、さらに続けます。

はい、まだ日本ボーダフォンを買収する前でしたが。もし日本市場での独占的販売権がもらえるのなら、こんな素晴らしいことはない、と彼に言いました。

そして言ったのです。「ちゃんと紙に書いて、署名してくれ」と。彼は「マサ、署名なんかできないよ。だって君はまだ携帯キャリアすら持っていないじゃないか」(笑)。だから言ったのです。「いいかい、スティーブ。あなたが約束を守ってくれるなら、私も日本のキャリアを連れて来るから」と。

                                 孫 正義
※ 米インタビュー番組から抜粋。

この誰もが無謀と思えたギャンブルに打ち勝った彼は、ソフトバンクを三大キャリアの一角を形成する地位にまで、押し上げるのに成功したのでした。

・『究極の自己満足』を突き詰める。

『情報革命』を推し進める彼は、近年、新しいステージへと歩みを進めます。
それが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドに代表される『群戦略』の形成です。

彼の思想は、ジャック・マー氏と非常に近しいと言えます。
それは、自らはプラットフォームを作り、そこに才能ある起業家を集める事を指します。つまり、彼はフェラーリやホンダを作るのではなく、それらのクルマが安心して走れる道路を作る事を自らのミッションに課しているのです。

このように、彼は短期間の内に日本を代表する企業グループを作り上げました。

既に、莫大な財産と地位と名誉、全てを手に入れたと思われる同氏ですが、まだまだ、そのバイタリティは衰えません。それは、情報革命の実現という『究極の自己満足』の追求が、その源泉となっているのです。

この、『究極の自己満足の追求』という思いは、彼自身の死生観でもあります。
若い頃、重い肝臓の病を患った彼は、医者に2年という余命宣告を受けます。その頃に悩み抜いて到達した答えが、『究極の自己満足の追求』だったそうです。
それは、個人の幸せを徹底的に突き詰めた時、自分以外の誰かを幸せに出来た時に、自己の喜びが最高潮に達する、という思想を指します。

もちろん彼は聖人君主では無く、ビジネスマンです。
自らのエゴと野望も当然存在します。ただ、彼の生き方を見ていると、そのスケールやバイタリティに圧倒されます。
決して真似する事は出来ませんが、彼の一挙手一投足にワクワクさせられる、数少ない人物だと言えるのです。
果たして今後、彼のビジネスがどう展開するのか、興味を持って見守って行きたいと思います。