自動車業界にD2Cを導入したテスラ。その意味と未来とは?

小売りの世界では、ユニクロに代表されるようなD2C( Direct to Cunsumer )が、話題を集めている。

その定義に関しては、以前の記事で説明したので、ここでは割愛するが、多くの先進的はメーカーは、こぞって導入を進めているのだ。

そんな中、自動車業界で、このシステムを導入したのが米国のEV車メーカーのテスラだ。
既に一部の超高級車メーカーでは、採用されていたシステムであるが、これを量産車の世界に持ち込んだ世界初の企業と言えるのだ。

そもそも、一部の高級車を除き自動車とD2Cというシステムは、親和性が低い。
自動車の製造には、3万点もの部品と多大なコストが掛かる。大量生産を行わないといけないメーカーにとって、生産から販売、そして着金までのタイムラグが長すぎると、資金がショートしてしまうのだ。

・在庫を抱えない自動車メーカー。

サプライチェーンの効率化や、消費者の声をダイレクトに商品開発に反映する為には、自動車ディーラーを介せずに、メーカー自身が販売に乗り出した方が良いのは明確だ。しかし、トヨタを含めた大手自動車メーカーがディーラー制を維持しているのには理由がある。

現在、殆どの自動車メーカーは、自社で自動車の組み立てを行い、それを販売店に売却する事で資金を回収している。要は、メーカーが造った製品は全て販売店が引き取る、という前提でビジネスが成立しているのだ。その為、基本的にメーカーは在庫を持たない。

メーカーにとって、数か月後の顧客への販売数や、グレード構成などを正確に予想し合致させるのは不可能で、必ず完成車を引き取ってくれる販売店は、非常に有難い存在と言えるのだ。

このように、メーカーの資金繰りが上手く行くのは、メーカーに変わって在庫を抱えてくれ、且つ、きちんと代金を支払ってくれる販売店のお蔭なのだ。
そして、メーカーは、それと引き換えにして、特定の地域での専売権を販売会社に与える事でシステムを維持しているのだ。

この方式に、真向から挑戦したのがテスラのCEOであるイーロン・マスク氏だ。
当初、テスラが直販方式を打ち出したところ、全国のディーラーから大反対が起こった。それは、テスラのみが直販する事で、価格競争が無くなり、利用者に不利益をもたらすというものだった。

これらの声を跳ね付け直販に踏み切ったマスク氏は、まさに自動車業界にとって異端児とされたのだ。テスラがディーラーを介さずに直販方式を取れたのには、理由がある。それは、メンテナンスに関係している。

自動車には本来、定期的なメンテナンスを必要だ。

しかし、ガソリン車と比べて部品数が半分と言われるEV車は、大部分のメンテナンスの手間を省く事が出来るのだ。特に、エンジンとトランスミッションを廃止した事により各種のオイル交換が必要無くなる事は、販売店にとって誘店の機会を失ってしまう大事件なのだ。

また、販売後に追加改良された部分や、不具合の改善などは、メーカーが直接クルマと通信して、新しいプログラムをダウンロードする事で改善が計れるようになった。この事が、ディーラーの必要性を低下させて、D2Cの実現に一役買ったことは否定出来ないのである。

このD2C方式の導入で、テスラは高い利益率を達成する一方、資金繰りは苦しくなる。
これは、生産の遅れと言う面もあるが、システム上、生産台数が増える程資金繰りが苦しくなるのは、先に述べたような理由があるからだ。
現在テスラ社は、車両代の25%を前金として徴収する事でキャッシュフローの改善を計っているが、現状は、常に自転車操業的な状況を脱していないと言える。

イーロン・マスク氏は、この状況を『生産地獄』と形容する程、苦悩の中に居る。

しかし、自動車業界の目指す方向性が、EV・自動運転という方向であるなら、自動車のコモディティ化は避けられない問題と言える。そうなれば、自動車の『価格』に対する重要度は、今まで以上に増し、メーカーとしては、D2C方式への移行を真剣に考えなければならない状況が訪れる。

つまり、コモディティ化により減った利益威率を補うには、サプライチェーンの上か下に垂直統合しないといけなくなる。しかし、上に関しては部品メーカーを自社のグループ内で構成していると不可能で、自ずと下(販売)に向かわざる負えないのである。
その意味で、イーロン・マスク氏の挑戦は、非常に意味のあるものだと言える。

メンテナンスの需要が減る事が明確な中、自動車ディーラーは過渡期にあると言える。
新車とは、本来どこで買っても変わらない物である以上、自社の優位性を発揮するのが非常に難しい営業形態と言える。変わりゆく時代を捉え、変化して行く事。そのことをテスラの事案は示していると言えるのである。