『価格』の概念に変化が…!? 顧客や時間によって価格を変える小売業。

米国では今、ダイナミック・プライシング(動的価格設定)を小売り各社が取り入れ始めている。

ダイナミック・プライシングとは、日本では余り聞く事は少ないが、実は、私達の周りにも存在する。
その1つがアマゾンだ。
彼らは、自社の製品に関し、多い物だと1日に数回価格を変更する。簡単に言ってしまえば、独自に開発した人工知能を使用して、競合他社の販売価格を常にリサーチする事により、柔軟に価格を上下させる事により、収益を最大化するのだ。

実は、人間の価格の許容度は、時間帯や環境によって大きく変化する。

これを証明するのが、オランダのあるガソリンスタンドの取り組みだ。
同社は、人工知能を使用したダイナミック・プライシングを採用している。それにより、1日の内に行くタイミングで価格が大きく変わる。

例えば、人間は朝の通勤時などでは少々値段が高くても、それを許容する傾向にある。それは、時間に追われている為、安い店を探そうという意識が薄くなる為だ。
一方、これが午後になると、人間の購買行動は違ってくる。それに合わせて、価格を下げる事で、収益を最大化させているのだ。

現在、米国ではウォルマート、ターゲット、コールズなどの小売業者が、この方式を取り入れ始めている。具体的には、オムニチャネル化を進める中で、実店舗とネットでの価格を調整しているのだ。

こうした取り組みの原動力となっているのは、全てのチャネルで価格を統一していては、競合するEコマース業者に後れを取るのではないかという危機感だ。
オンライン企業は、サイト訪問者の購入意思や、行動に基づいて価格を変更する事で、見込み客を巧妙に狙い撃ち出来るのだ。

つまりは、こう言う事だ。
ネット企業は、利用者の購買履歴や検索内容から、購買意欲を数値化する事が可能だ。極論を言えば、買う事が確実な客に対し値引きを行う必要は無いのだ。

実際に、ライドシェアのUberでは、これに近い事が起こっている。
具体的には、同じ条件下に於いての常連客と初見の客の価格が違う事が問題になったのだ。同社は、敢えて初見客の価格を安くする事で、新規顧客を取り込もうとした。その為、夫婦が同じ条件でライドシェアを予約したところ、価格の違いが発覚し、問題になったのだ。

営業職の方なら、お分かりだと思うが、他社と競合している場合に自社が優位に立つには、最後に見積もりを出せるかが重要だ。すべての条件が提示された後に、自社の条件を提示すると言う、謂わば『後出しジャンケン』が出来てしまうのだ。

ただ一方に於いて、この事は顧客に不信感を与えてしまう。
最近の報道では、総合スーパー大手のターゲットは、顧客の居場所(店舗の中に居るか、外に居るか)で価格を変更している事が分かった。結果、店舗を訪れて買う方が高い価格設定を適用していたのだ。

確かに、企業側にしてみれば、店舗に訪れる客は絶対に買う客である一方、ネット客は見込み客に過ぎない。戦略上、後者を優遇するのは理に適っているが、それが有効に作用するのは、それを行っているのを誰にも知られていない場合だ。

ダイナミック・プライシングとは、マージンを取りつつ他社と競争を行いながらも、顧客の信頼を維持すると言う、謂わば、綱渡り的要素を持つものと言える。
その為、各社は、顧客の不快感を最小限に留める方法を模索しているのだ。
(例えるなら、生鮮スーパーの閉店前の総菜のオフシールや、ホテルや飛行機の当日予約割引などが代表的な例だ。)

多くの小売業が、そのデメリットを認識しながらも、ダイナミック・プライシングを採用するのは、実店舗がオンライン業者に苦しめられている実態を象徴する出来事と言える。
検索履歴や閲覧商品などの顧客情報を収集できるオンライン業者と比べ、実店舗が得られる情報量は遥かに少ないのだ。この『情報格差』こそが実店舗が苦戦する原因なのだ。

実店舗が生き残る為には、顧客情報を如何に収集出来るかに掛かっている。
つまりは、検索履歴に相当する、店舗に入ってからの顧客の動線や、顧客が、何処で立ち止まって、何を手に取ったのか、と言うネットの世界では20年前から取っていた情報を、取れてなかったのだ。この事が、個々の顧客にカスタマイズした広告をメール出来るネット企業と、『チラシ』と言う単一化された広告しか打てない実店舗の差を生み出した。

しかし、今はテクノロジーの進化により、そのような情報を収集する事が可能になりつつある。今は、オムニチャネル化は勿論、この情報格差を如何に是正するかが大切なのである。