ファーウェイ問題で深刻化する米国と欧州諸国の亀裂。


長年、蜜月の関係を維持してきた米国と欧州諸国との亀裂が深刻化している。

その原因は、トランプ大統領が提唱する『米国第一主義』に代表される、ナショナリズムの世界的高まりだ。

両者の亀裂が決定的になったのは、昨年フランスで行われた第1次大戦終戦記念の式典での出来事だ。
ここで世界的ナショナリズムの高まりを危惧する開催国のマクロン仏大統領は演説で、『古い悪魔が再び目覚めつつある』と、公然とトランプ大統領を批判したのだ。そこには、米国のみならず、イタリアやハンガリーと言った欧州の足元に広がりつつある、右翼思想への危機感が滲んでいた。

これに対しトランプ大統領は、会場入りする際に共に歩いた他国の首脳とは、一線を画し別行動をすると共に、マクロン大統領が発案した『パリ平和フォーラム』への参加も行わなかった。

その後、トランプ政権が中距離核戦力(IMF)全廃条約を破棄すると発表すると、マクロン大統領は『同条約が破棄されると、欧州が最大の犠牲者になる。』として、『ロシアや中国だけでなく、米国からも自らを守らなければならない。』と発言。米国に頼らない『欧州軍』の創設を加速させたのだ。

後から分かった事だが、この決定に際して米政府は、欧州各国に対して一切の協議は勿論、事前通達さえ行っていなかったのだ。その事が、EUの不信感を増幅させる決定打となってしまった。

(1987年に締結されたIMF条約は、欧州諸国にとって脅威となっていた、ソ連の地上配備長距離ミサイルを取り除く為のものだった。)

EUにとって、米国第一主義の高まりは、欧州安保の基盤であるNATO(北大西洋条約機構)の精神を根底から否定するものだ。その役割から米国が離脱する事を示唆しだした事で、欧州独自の安保制度の役割を模索する事は、当然の流れと言える。
結局、『欧州軍』構想には英独など9ヵ国が賛同。その亀裂が決定的なものとなった。

今回のファーウェイ問題は、この話の延長上で考えなければならない。

ファーウェイを排除する方向性を米国が示した時に、一番に反発したのが、英独、そしてカナダだった。米国にとって英国・カナダの2ヵ国は謂わば『盟友』である。安全保障問題と言う国家の根幹に関わる問題では、過去一心の団結を示してきた。今回この両国が反発した事は、非常に大きな意味を持つのだ。

今回、欧州やカナダと言った関係諸国が、事実上のファーウェイ容認の方向で動いたことは、ナショナリズムが高まりつつある米国への牽制という一面と、米国自身が言うファーウェイ機器の『バックドア』の存在に関し、具体的な”物証”を示せなかった、という事が挙げられる。

実際問題、ファーウェイ機器を占め出す事で5Gへの対応が2.3年遅れる事は明白で、この事は、IT分野で先行する中国に対し、より一層不利な立場に追い込まれる事を意味しているのだ。

EUの米国離れが深刻化する中、両国のフラストレーションは頂点を迎えようとしている。
そして、このファーウェイ問題は、既に米中の対立という枠に収まり切らなくなってきているのだ。それは、米国がこの問題を一種の『踏み絵』として関係諸国に判断を求め出したからだ。

事実、米国はドイツに対しファーウェイ機器を採用するなら、今後、安保関係の情報共有を行わないという声明を出している。このことは、NATOからの米国脱退を意味するものと言えるのだ。

の動きに関し、一番得をするのは間違いなくロシア・中国の2ヵ国だ。
彼らは、自らは何もする事なく対立の火種をばら撒いてくれるトランプ大統領は、ある意味に於いて有り難い存在と言えるのだ。

一方、中国に関しても、この対立を有効活用出来ずにいる。彼らは、この問題を利用して西側諸国を取り込むチャンスだった筈だ。
しかし、彼らは米国同様に、西側諸国のビジネスマンを拘束という対抗手段を取ってしまった。この事は、多国籍企業に対し政治リスクを更に再認識させる事態になったのだ。

現在、西側諸国の枠組みは崩壊寸前にある。

それを加速させているのは米国を中心とした『自国第一主義』という右翼思想だ。
そんな中、それを断ち切る指導者は存在しない。
唯一期待出来るのはドイツのメルケル首相だが、彼女は既に退任が決まっている。フランスのマクロン大統領は、指導的立場には少し小粒と言えるし、何より国内で活性化しつつある『黄色いベスト運動』により、それどころでは無いという状況だ。

そんな中、ナショナリズムという病は、確実に世界中に伝染しつつある。
そして、その根底には行き過ぎた資本の原理により生まれた貧富の差による、国民の不満だと言えるのだ。

トランプ氏が自身で『ディール』と言う外交手段は、単なる『チキンレース』に過ぎない。
断崖絶壁に向けてアクセルを踏み込む彼は、自分が運転が上手いと思い込み、同乗者が次々と車から飛び降りて行くのに気付かないでいる。この事は、米国の『終わりの始まり』を意味するかもしれないし、運よく崖の手前で止まるかもしれない。しかし、一番の不幸は賢明な政治家の不在だと言えるのだ。

世界は確実に悪い方向へと進んでいる。
物事はもっと単純な筈だ。世界経済の発展には自由貿易が不可欠な事は、既に実証されているのだ。

そして、何より大切なのはルールの『公平性』だ。

米国では、GAFAに代表される巨大IT企業やヘッジファンドが、巨額の資金をロビー活動につぎ込み、自らに有利な税制を確立した。同様の事は世界中で起こっており、資本主義国家は階層化が進んでいる。その事への不満が、トランプ旋風であり、黄色いベスト運動の根幹にはある。

過剰なナショナリズムの行き着く先は、様々な歴史的事例を挙げるまでも無く明らかだ。
ローマ帝国、大英帝国、世界の覇権を狙った国々は、繁栄と衰退を繰り返し歴史から消えて行った。

しかし現代は、彼らが槍や大砲で小競り合いをしていた時代ではない。一国の馬鹿な指導者が『死なば諸共』と、世界を破滅させる事が出来る時代なのだ。

人類は、それを多大な犠牲の上に学び、戦後、共存の枠組みを作った。その事を私達は忘れてはいけないのだ。