ソフトBに暗い影。リフトIPOに見る投資戦略の限界。

先月29日に新規上場を果たした、米国ライドシェア大手のリフト。

世界的景気後退が囁かれる中、同社の上場は、その不安を払拭するかのような盛り上がりを見せた。IPOに先立つ投資家向け説明会では、2日目にして応募超過になり、最終的にはIPOの仮条件を上回る72ドルの売り出しになるなど異例の展開を見せたのだ。
そして、注目の上場当日の初値は87.24ドルと人気を博し、時価総額は一時250億ドル(2.8兆円)を上回る事になる。

まさに最高の船出とも言える状況の中、週明けの4月1日には状況が一変する。
突如、同社株式の投げ売りが始まり、最高値から20%の大暴落が起こったのだ。

7年前に創業された同社には、現在まで115人以上の投資家が総額50億ドル以上の投資を行っている。
その中には、筆頭株主の楽天やGMなど様々な有名プレイヤーが存在するが、彼らのような初期の投資家には、通常150日間のロックアップ期間が設定されている。これは、急激な株価の下落を避ける為に、一定期間は株式の売却を禁止する契約の事を指す。その為、今回の暴落に関し、彼らは一切関与していない事になるのだ。

今回の、この出来事をどう捉えるか、それは人それぞれだろう。
しかし、個人的見解としてはテックバブルの崩壊を意味している様に思えてならない。

未上場企業の企業価値を計る事は、非常に困難だと言える。
現在、米国や中国を中心に企業価値10億ドル以上のユニコーン企業が多く存在する。これらは、『ソフトバンク・ビジョン・ファンド』に代表されるVCにより潤沢な出資を重ね、その度に企業価値は上昇して行く。しかし問題は、そこに短期的な利益と言った経営状況が加味されない事にある。

実際にリフトの経営指標を見て行くと、昨年度は22億ドル程の売上に対し、9億ドルにも昇る赤字を計上している。今後、同様にIPOが実施される事にが決まっているUberに関しては、実質的には12億ドルにも及ぶ赤字を計上しているのだ。

そもそも、ライドシェア事業は自動運転技術を前提としたビジネスモデルであり、現状に於いては、その技術的成功無しに黒字化は難しい状況だと言える。
問題は、その技術が実用化されるまで資金が枯渇しないのか、という点にある。

現在の企業価値の算出法は、数字だけが独り歩きしているような印象を拭えない。そこでは、将来性だけが必要以上に重要視されており、実際の経営状況が反映されていないのだ。

確かに、現在多くのスタートアップが採用する、まずスケールを取りに行くという戦略は、市場での自社のポジショニングを確立する上では、重要な事だと言える。しかし、これは常に潤沢な投資資金が得られる、という絶対条件が必要だ。景気の良い時は、資金が常に潤沢に存在しており、その事を気に掛ける必要はあまり無いかもしれない。しかし、景気の後退時期に於いては、そのリスクは急激に高まる事になる。つまり、これらのスタートアップ企業は『輸血』を絶たれると生きていけないのだ。

現在、ライドシェア業界に関わらず、多くのユニコーン企業は旺盛な投資熱によって支えられている。ただ、忘れてはならない事は、スタートアップ企業への投資は、元来『ハイリスク・ハイリターン』な存在だという事だ。

私は、ライドシェア業界の未来は否定しない。しかし、過去多くのビジネスが、早過ぎた為に資金がショートしてしまい、日の目を見なかった現実も良く知っている。
そして、何より危惧するのは企業価値と実態経済が、益々乖離している状況だ。出資を重ねるだけで肥大化して行く現在の企業価値の算出方法は、明らかに実際の企業価値を反映していないと言えるのだ。

世界的な景気の冷え込みが予想される中、今後Uber、ピンタレスト、ポストメイツと言った有力スタートアップ企業のIPOが予定されている。各社、市場が冷え込む前に上場を果たしたい、という思惑の中、今回のリフト上場は、市場の風向きを決定づける可能性を秘めている。そんな中、如何にエグジットしていくか、孫正義氏の手腕が試される状況になりつつあると言えるのだ。