独自の投資スタイルを貫く孫正義氏。その知られざる手法とは?①


ソフトバンクGは、創業者でありCEOである孫正義氏が掲げる『群戦略』の実現に向け、2017年5月に10兆円規模にも及ぶ『ソフトバンク・ビジョンファンド』を設立する。

この過去に於いて類を見ない巨額のファンドの登場は、世界中に衝撃を与える事になる。
何故なら、その莫大な投資資金は、全世界のベンチャーキャピタルが、資金調達を行う総額を遥かに凌ぐものだったからだ。

その巨額の資金ばかりに目が行きがちな同ファンドであるが、その投資戦略も他のファンドとは明らかな違いが存在する。彼らの投資への基本スタンスはAI(人工知能)を用いて、世界に革新を与える可能性の有る企業への投資だ。

ただ、人工知能は汎用性の高いテクノロジーの為、カバーする業界の幅は非常に広くなってしまう。その為、彼らは、それら業界のトップ企業やユニコーン企業に満遍なく投資するスタンスを採用する。つまり、その投資先企業が例え競合同士だったとしても、謂わば『全張り』を行う訳である。

・次世代エネルギー・輸送・IoTへの重点投資。

さて、退屈な前置きはこれぐらいにして、彼の投資の本質に迫ってみたい。
その本質とは、『プラットフォーム』を押さえる事に他ならない。

プラットホームの重要性については、今更言うまでもないかもしれない。
スマホ市場を見ると、結局のところ躍進したのは端末メーカーでは無く、グーグルやアップルと言ったプラットフォーマーだったし、EV化しつつある自動車メーカーでも、エンジンやトランスミッションが無くなる事で参入障壁が低くなり、コモディティ化の道を歩む事になる。
そして、それらのプラットフォーマーになる事は、そこから得られる膨大な量のデータを取得出来るという事だ。ロボティックス+AIという時代において、その『脳』であるAIを構築するには、この大量なデータの存在が欠かせないのだ。

孫氏の言葉を借りるなら、それら業界の『オセロのカド』となるのが、輸送分野のライドシェア業界であり、IoT分野では、中核技術と半導体を握る英アーム社に他ならないのである。

彼の目指す世界は、再生エネルギーによって作られた電力で、街中をEVが走り回る。そして、そのEVには大量の半導体が使用され、廻りのクルマと通信しながら自動運転を行う。それらから得られるビックデータを更なるビジネスに活用して行く、そんな世界なのかもしれない。

実際、孫氏ほど情報の価値を知っている人間はいない。

彼は、創業間もない時期から世界最大のコンピュータ見本市である『コムテックス』に資本参加し、ヤフーと出会う。彼が、あのタイミングでヤフーと出会えたのは決して偶然では無く、そう言った『種まき』があったからだ。そして、自らジョイントで『ヤフー・ジャパン』を立ち上げ、プラットフォーマーとなった事で、『情報』を手に入れた。その情報こそが、後の事業への強力な武器となったのだ。

つまり、彼は『情報強者』こそが、ビジネスを制する事を本能的に理解しているのだ

・投資は広く浅く…

彼の提唱する『群戦略』とは、アーム社を別として出資比率を50%以下にして、支配権を握らない事が特徴だと言える。その理由は単純だ。つまり、より多くの『種』を撒く事が重要なのだ。

1社に多額の資金を投入するより、少額の資金を多くの会社に分散することにより、当然、生き残る可能性は高くなる。そのような投資を、成長市場に対し行う事で、市場の成長と共に成功を手にする事が出来るのだ。

その上、彼は投資した会社に細かく口を出す事はしない。
その代わり、安易なIPOを行わず現在のビジネスモデルを再考する『時間』を与えるのだ。これは、彼の口癖でもある『THINK BIGGER!!(大きく考えろ!!)と言う言葉に集約される。

彼は群戦略の理想形について、池の鯉に例え以下のように説明している。

(池に泳ぐ鯉を指さし)

『あれを見ろ。この恋の群れは誰が支持した訳でも無いのに、ちゃんと群れとして行動している。』

『グループ経営も、こうならなければいけない。』

                        孫正義

・借金してでも投資する!!

ソフトバンクと言えば、『借金』。
そう連想される方も多いと思います。因みに、有利子負債15兆円というのが、どのような金額かと言うと、利払いだけで年間4600億円以上。これを日割りにすると1日12.8億円・1時間5000万円と言う恐ろしい恐ろしい金額になる。

通常の人間ならメンタルが崩壊しそうな金額だが、そもそも彼の人生は、『借金の人生』と言っても良い。創業後数日で資本金を使い果たし、常に身の丈以上の借金を行ってきた。通常では、有り得ない額の資金をいつも上手く集めて来るのだ。

彼自身言っているが、経営者にとって必須の能力は『ファイナンス』だ。この能力によって、彼は、通常なら超えられない壁をも超えて来たと言える。

ビジネス環境が猛烈なスピードで変化する中、経営判断の遅れは致命傷になる。
生き残りと成長の為には、例え借金してでも投資を行って行かなければならない、と言うのが孫氏の持論だ。

彼の秀逸な点は、保守的な銀行に対し既に引き返せない場所まで引きずり込んでしまう点にある。まさに、彼らがそう望むかどうかに関わらず『一蓮托生』なのだ


『お前は、水の上を歩く方法を知ってるか?』

『分かりません。』

『左足が沈む前に右足を出し、右足が沈む前に左足を出すんだ !!』

                      孫正義

まるで冗談のような話であるが、孫氏が言うと納得してしまうのが不思議だ。
まさに、彼はこうやって今まで生き抜いてきたのである。

では、このようにして集めた資金を彼はどのように投資してきたのか?
ソフトバンクが投資するベンチャー企業は、ユニコーンを始め、ある程度成熟期を迎えた企業が多いが、多くが収益化には程遠く大量の赤字を垂れ流している。その為、様々な経営指標は投資判断には役に立たないのだ。

例えば、孫氏の投資について多く語られるのは、ヤフーとアリババへの投資だが、孫氏がアリババへの投資を決めた時、アリババの売上は3年間で5万円だったと言われている。その中で、彼に投資を決断させたのはジャック・マー氏自身。つまりは、『人』なのだ。これについては次回、様々なエピソードを交えて話して行きたいと思う。