中国が態度を一変!? 米国との対決姿勢を明確化。

『重大な原則の問題に対して、中国側は決して譲歩しない。』

11回目のハイレベル協議で、米中間の貿易問題は一定の妥協に至り、収束するという楽観的な憶測が急展開を見せた。つまり、中国側が態度を一転、強気な姿勢に打って出たのだ。これには、習近平の意向が強く反映されていると言われており、彼自身が、『全ての責任は自分が取る。』とまで言い切ったと伝えられている。

ここで気になるのが、これまで弱腰とまで言える程の妥協を重ねて来た中国が、なぜ今になって強硬姿勢に打って出たかという事だ。当然だが、これは子供の喧嘩では無く、その態度の急変の裏には、何か明確な理由がある筈なのである。

つまり、少なくても短期的な貿易紛争には十分に耐えられるという自信が、中国側に芽生えたという事だ。

その具体的根拠の1つが、人民元安だ。

現在の米中の紛争が激しくなる中、国際的に人民元の下落圧力が強まっている。この事が功を奏し、2018年に米国が発動した対中制裁関税は一定程度相殺され、その効果は、米国が期待する程の結果をもたらさなかった。仮に今回、米国が25%の関税を課したとしても、人民元が10%下落すれば、実質的に15%の効果しか及ばさない事になる。

勿論、限度を超えた人民元安は資産の海外流出を招き、輸出にも悪影響を与える。
ただ米国にとって、そこまで中国を追い込む事は出来ない。それは、中国が人民元安を是正する最終手段は、米国債の売却しかない事を理解しているからだ。米国債が売られれば、長期金利が上昇し最終的に米国は金利負担に耐えられなくなる。

米国のアキレス腱は、その莫大な財政赤字だ。

米国の国債発行諮問委員会の試算では、今後10年間で米国は12兆ドル(1317兆円)もの国債を発行する必要があると言われている。この額は年々増加しており、それに伴い利率も上昇傾向にある。この巨額の資金を個人投資家から集めるのは不可能で、中国は最大の債権の引き受け手である。仮に中国が買い入れ額を減少させれば、米財務省は国債を売る為に、より高い利率を設定せざる負えなくなるのだ。

つまり、米国は中国を駆逐したいと言う思いとは裏腹に、必要以上に弱らせる事は、自国の崩壊にも繋がると言うジレンマを抱えている。

一方トランプ氏に関しても、今年第一四半期のGDP成長率が3.2%上昇した事が、強気な態度の根拠となっている。ただ実際のところ米国の経済は、この数値が表している程、良い状態とは言えない。事実、国内需要の伸びは昨年第2四半期までは4%を超えていたのに、現在は1.5%まで落ち込んでいる。つまり『生産額』を表すGDPと、実際の『消費』を表す指標の間にはタイム・ラグが存在するのだ。

結局のところ、この両者の楽観が事態を長引かせる可能性が高い。
しかし、現実的に見て米国は中国を潰す事は出来ないし、中国も米国債を買い控える事は出来ない。現状、米国債程の利率を得られる安全な投資先は、どこにも存在しないからだ。

恐らくであるが、習近平の狙いは関税の影響で米国経済が停滞し、それによりトランプが失脚するという筋書きに思える。自信過剰なトランプの言動は、最早、引くに引けない所まで来てしまっているのだ。関税による保護主義を信奉するトランプは、駆け引きのレベルに留まらず、本気で関税を好ましいと考えている節がある。

しかし、関税により米国の消費者と企業の負担を増す事が、米国の雇用を増大させる事に繋がるか、と言う点はかなり疑わしいと言える。

私が不安視するのは、トランプの戦略の愚かさから、現在の中国の不公正な体制が温存されるという点にある。特に知的所有権のような問題に関しては、米国だけでなく欧州・日本も共通した問題意識を持っている。その為、それらの国々が共闘する事で、より確実な成果を上げられた筈なのだ。

しかし、トランプは相手かまわず喧嘩を売りまくり、自身の実力を過信して単独での交渉に臨んでしまった。最早、出来ませんでしたでは済まないのだ。

彼はタフなイメージを示し、再選に持ち込みたいと思っている。

ただ、その行為は明らかに不必要な敵を作ってしまっている。ファーウェイ問題で世界に対し『踏み絵』を課した事で、欧州との断絶は決定的な物となった。そして、アンチ中国で有名だったマレーシアのマハティール首相でさえ、『米中貿易戦争でどちらかを選べと言われれば中国を選ぶ。』と答えているのだ。

(余談だが、同盟国に冷たい態度を取り続けるトランプ氏だが、なぜか北朝鮮の金 正恩には寛大だ。度重なる裏切りにも関わらず、金氏を賞賛し、求められるままに何度でも出掛けて行く…。)

世界的プレゼンスを失いつつある事が明らかな米国だが、米国人だけがそれに気付いていない。且つては世界一裕福な国として君臨した国は、今や国民の2/3が500ドルの預金さえ持たない貧しい先進国へと成り下がってしまった。米国は『夢と希望』で人々を惹きつけ発展してきた国だ。それらが無くなった時、その発展は止まってしまうのだ。

中国の台頭は、米国の衰退を意味する。
この両者の覇権争いは、この先数年世界中を巻き込んで進行する事は、避けようもないと言える。その勝敗は、両首脳の進退に直接関わって来るからだ。
ただ米中がそれぞれ保護貿易を望む以上、世界にとって急務なのは第三の勢力の存在だ。

世界は、過去2回の世界大戦の教訓から互いに協調する体制を築いてきた。
しかし、現在その英知が崩壊しようとしている。そんな時代に於いて日本の果たす役割は非常に重要になる。

昨年、安部首相は米国の脱退により崩壊寸前となったTPPを見事な手腕で1つに纏め上げる事に成功した。日本が成すべき事は、世界に自由貿易の火を灯し続ける事だ。欧州と米国との亀裂が決定的な物となる中、今はEU諸国を取り込むチャンスだと言える。

今、日本に必要な事は出来るだけ多くのオプションを持つ事だ。
米中どちらかに付くという二者択一では無く、この争いを如何に利用するかと言う、したたかな戦略が求められていると言える。

結局のところ、両国どちらが勝とうとも世界にとってベストな選択には成り得ないのだ。