ファーウェイ問題に見る米中の5G覇権闘争の行方。

米国の『ファーウェイ排除』の動きは、日増しに激しさを増している。

トランプ政権がファーウェイという一企業に対し、ここまで執拗な攻撃を繰り返すのは、次世代通信規格である5Gネットワーク整備への遅れが原因だと言える。

実は、次世代通信規格である5Gは、人工知能やIoTと言った技術と密接な関わりを持っている。

今年、上海で開かれたモーターショーでは、多くのEV自動車や各社の最新モデルが展示された。
そんな中、会場の一角に、ハンドルとペダルに大型ディスプレーという、まるでゲーム機のような運転席が設置された。実はこれ、運転シュミレーターでは無く、遠隔操作で車を運転する技術を体験出来る装置だった。

運転席のハンドルは、1000㎞離れた北京を走る車のハンドルと連動しており、ハンドルを切ると遅延なくモニター内のハンドルが回転する。上海と北京との間の操作のタイムラグは、何と0.01秒以下。この技術を可能にしているのが5Gネットワークなのだ。
このように、大量のデータが短期間でやり取りされる人工知能やIoTの世界で、不可欠なインフラが、この5Gネットワークだ。

実は、この技術の整備に於いて米国は中国に対し、大きく遅れをとっている。

・国家戦略として人工知能を推進する中国政府。

習近平政権は、米国のテクノロジーの優位性を覆し、中国がそれにとって代わるという明確な目標を掲げている。そして、その武器となるのが人工知能だ。

その為、同国は4つの重点分野を設定。それぞれに1つの企業を割り当てる事で、効率的な投資を行える環境を整備した。
具体的には、

・医療分野   テンセント
・スマートシティ   アリババ
・自動運転   百度(バイドゥ)
・音声認識   アイ・フライテック

以上の4分野だ。
中国政府は、これら4つの企業に対し資金や人材を含め、全面的なバックアップを行う。

・整備が遅れる米国の光ファイバー網。

ワイヤレスの5G機器やサービスには、光ファイバー網が不可欠だ。

中国は、この分野にも重点投資を行っており2025年までに、国内80%の世帯に普及させる計画の基、急ピッチな整備を進めている。

米国の大手コンサルティング会社の調査によると、2015年以来、中国の5Gネットワークの整備の為に240億ドル(2兆7000億円)を費やしており、これは米国の3万基に対し35万基の基地局を建設。総数で見ると米国の20万基に対し140万基と7倍もの差が現状存在する。その上中国は、更に4000億ドル(44兆5000億円)もの投資を計画中である。

戦略的な整備を行う中国に対し、米国の足並みは揃わない。

主力プレイヤーであるアップル・クアルコム・インテルが自社の利益最大化を求め、特許訴訟合戦を繰り広げたのだ。これにより、5G規格標準化のリーダーシップに於いて中国に先行される事態となってしまった。

・ガラパゴス化する米国の5G規格。

米国最大の問題は、その独自の周波数帯だ。

中国を初め欧州・日本などは、6GHz未満のsub-6帯域を採用している。
この周波数は、遠くまで電波が届くという特徴を持ち、建設する基地局が少なく済む為、低予算でネットワークを整備出来ると言う特性を持つ。

一方米国は、電波が届き難い『ミリ波』と呼ばれる帯域を採用する事を決定している。
これにより、多くの基地局を建設する必要があり、非常に非効率なシステムとなってしまったのだ。米国は敢えてこの不効率な帯域を使用する理由は、sub-6帯域は既に米軍が確保しており、民間に明け渡す事を拒んだという事情がある。

・ファーウェイ排除で逆転を狙うトランプ政権。

このような状況の中、トランプ政権が打ち出したのがファーウェイ排除の動きだ。
まず、ここで明確にしておかなければならない点は、米国が主張する『バックドア』の存在に関し、トランプ氏は科学的な証拠を提示出来ていないと言う点だ。

その上、米国が継続的に自国や世界中の国に対してインターネット傍受をしていたという事実は、スノーデン文書で明らかになっているのだ。個人的意見を言わせて貰えるなら、中国も米国も『同じ穴の狢』に過ぎないという事だ。

『安全保障』と言う言葉は、謂わば魔法の言葉だ。
この一言で、全てが正当化されてしまうからだ。

5月20日のトランプ政権によるファーウェイ排除の意を汲みグーグルが、ファーウェイの新規端末へのアンドロイドの供給をストップすると共に、Playストアのアプリやメールを利用出来ない様にすると報じられ、ハード面に於いても、半導体などのファーウェイへの供給を各社が停止すると発表された。

今回、恐らくファーウェイにとっては会社設立以来、最大の危機を迎える事は間違いなさそうだ。しかし、それと同時に果たして本当にファーウェイを排除する事が可能なのか、という問題も存在する。

ドイツの調査会社の発表によると、5G分野において代替不可能な技術特許出願数において、中国は34%と14%の米国を大きく引き離している。
またファーウェイの基地局は、世界最先端の技術を持ちながらも、他社と比べて30%も安く、且つ小型に作られている。この設備のサイズは、基地局の鉄塔の建設コストにも大きく影響するのだ。

また、業界一位のファーウェイが抜けた事で、その逼迫する需要を賄い切れるか、という問題も発生する。欧州主要国は、既に米国と協調しない旨の方針を固めており、まだまだ予断が許さない状況と言えるのだ。

・激化する米中の覇権争い。

中国の急激な成長は、裏を返せば米国の衰退を表している。

一種の金融詐欺とも言える『サブプライム・ローン問題』により弱体化した米国には、中国市場の存在が不可欠だったのだ。それを理解している中国は、謂わばアメリカの『足元を見る』形で、不公正なルールを強引に認めさせた。つまり、現在の中国の繁栄を許したのは米国自身だとも言える。

当然、割を食ったのは同様のルールの適用された日本を含めた先進国だ。

結局、中国は自らが敷いた不公正なルールにより、現地企業との強引な合弁企業の設立に成功した。つまり、中国でビジネスを行うには必ず、現地企業との合弁会社を作るしか方法が無かったのだ。それにより、中国は短期間での『技術移転』を成し遂げる事になる。

このような状況を経て、起こったのが現在の米中貿易摩擦だ。

彼らは世界中を巻き込み、再び『冷戦』を始めようとしている。
ただ、今回の冷戦は米ソ冷戦時とは明確に違う。それは、戦後一貫して強固な関係を築いてきた米国とNATOという構図が一変した事にある。


『アメリカン・ファースト』を公約に掲げるトランプは、NATOから距離を置く事で、EU諸国は、それに代わる『EU軍』の創設に動き出した。そして、事態を最悪なものにしたのがトランプによる『INF条約(中距離核戦力全廃条約)』の一方的破棄だ。

そもそも、この条約は、米ソ冷戦当時にソ連邦の核の脅威から欧州を守る為に作られた。
しかし、今回トランプは、EU諸国に対し何の相談も無く、一方的に条約を破棄してしまったのだ。

この軋轢は、中国の欧州への影響力増大に大きく寄与する事になる。
実際、今回のファーウェイ問題に関し、EU諸国は米国に追随しない可能性が高い。

このような状況を作り出したのは、明らかにトランプの戦略的失敗だ。

少なくても知的財産権の保護等に関しては、先進国は共通の問題意識を持っており、十分に他の先進国との『共闘』が可能だった。しかし、トランプは自分の能力を過信する余り、単独交渉に臨み、事態を泥沼化させてしまった。手当たり次第に敵を作る彼のやり方は、世界を分断させ、問題を拗らせただけだったのだ。

自らを『安定した天才』と呼ぶ愚かな老人は、世界を泥沼に引きずり込む危険性を秘めている。
過去2回の世界大戦で、人類が得た英知が協調だった筈だ。そして、その枠組みの中で人類は、世界的なエコシステムを構築する事で、各国間の利益の統一を計り、現在の世界的な貿易体制が整えられた。つまりは、戦争と言うものが割に合わない環境を、ビジネスをベースとして作り上げたのだ。

そのエコシステムを壊す事は、世界秩序に不安定感をもたらすと言える。
今回のファーウェイ問題の本質は、米中の覇権闘争に他ならない。そして、確実に言える事は、米国は決して他国の覇権を許さないという事だ。

その意味で、米中の対立はジャック・マー氏が言うように長期化する可能性が高い。
ただ、日本にとって厄介な問題は、保護主義を標榜する米国と、不公正なルールを推進する中国、どちらに付こうが良い未来とは言えない点にあると言える。