果たしてAmazonの繁栄は、このまま続くのか!?

『アマゾン・エフェクト』という言葉さえ生み出したEコマースの躍進は、多くの実店舗に根深い危機意識を植え付けた。そんな中、ウォルマートを中心とした一部企業は、従来の守りの姿勢を改め、攻めの姿勢に転じている。明らかに、フェーズが変わりつつあると言えるのだ。今回は、現状の小売業の取り組みを見て行きながら、その未来について考察して行きたいと思う。


Eコマースと言う言葉は、早々に消え失せる。

                    ジャック・マー

現在、全盛を極めるEコマースにおいて、ジャック・マー氏は小売業の将来を、こう予言した。
実は、この発言は2016年に同氏から発せられた言葉なのですが、現在は、この言葉は示すような動きが、米中を中心に起こっている。

具体的には、Amazonやアリババと言ったEコマースが実店舗に進出し、ウォルマートやクローガーと言った小売業大手が、Eコマースに乗り出している。こうやって、お互いが歩み寄る事により、オンラインとオフラインという境界線が崩れつつあるのだ。

この流れを生み出したのは、Eコマースの飽和だ。
一時は爆発的な成長を遂げたEC市場であったが、主要プレーヤーが出揃う事で、成長の鈍化が顕在化してきたのだ。そんな中、まだ未開拓な市場として注目を浴びたのが、食品EC市場だ。

米国での食品EC市場は60兆円とも言われており、Amazonなどに代表されるEコマース企業にとって、まさに『最後の楽園』とさえ言える。ただ、一方に於いて食品とEコマースの親和性は低い上、冷凍・冷蔵設備を完備した倉庫や配送車と言う、所謂『コールド・チェーン』の必要性が、大きなハードルとなっていた。

ただ食品市場は、その莫大な市場規模だけでなく、Eコマース企業にとっては特別な意味を持つ。

つまりは、人間は一番良く使うECサイトに愛着を持つ、という点だ。
例えば、貴方が電池が欲しかったとしよう。いつも購入しているAmazonで買うと言う選択肢もあるが、利用者にとっては、配送時間に家に居なければならない事は、非常に煩わしい。ならば、多少高くても食品を購入しているウォルマートに注文して、一緒に届けて貰おう、と考える訳だ。

このように、食品ECの特異なところは、その購入頻度の高さから様々な『ついで買い』が期待出来ると言う点にある。

・進化する食品EC

食品ECの分野で、現在世界の最先端を走るのが、中国の『フーマ・フレッシュ』だ。
既に、当サイトでは数回に渡りご紹介しているので、詳細はそちらをご覧頂きたいが、ネットで購入後、僅か30分で自宅に届けてくれる驚異的なシステムは、大人気を博しており、その周辺の住宅の価格にさえ影響を与えている。

『フーマ・フレッシュ』を経営するアリババが、30分という時間に拘るのは、30分が人間が待ってられる時間だからだ。

ネットで物を買う場合に煩わしいのが、商品が届くと思われる時間帯に自宅に居る必要がある、という点だ。最近では、宅配ボックスを設けるマンションも増えつつあるが、冷蔵設備まで完備しているロッカーは、殆ど見当たらない。

しかし、宅配に掛かる時間が30分ならピッキングや輸送の時間を考えると、商品が届くのは恐らく15~30分後だ。利用者は15分間だけ拘束されるだけで済むのだ。

アリババが考える戦略は、明快だ。
彼らの考える食品ECでの成功のカギは、流通だ。

30分の配送を可能にする為には、住宅地の近くに倉庫を設けなければならない。それならば、実店舗に倉庫機能としての役割を持たせてしまおう、というものだ。それにより利用者は、時間がある時は店舗を訪問し新しい食材や、新鮮な海産物を見て楽しみ、気に入れば、その場で食材を使って料理までしてくれる。また、専用アプリを使う事で、持って帰りたい物は、手持ちのカゴに入れ、重くて配達して貰いたい商品は、ネット上の『カゴ』に入れれば、家に着くと同時に、商品も届くと言う便利な活用の仕方が可能なのだ。それにより、最近の店舗に限定すれば、店舗の売上の60%がネット経由という、世界に類を見ない状況を作り出す事に成功した。

・苦戦するAmazon。

一方に於いて米国のAmazonは、善戦しているとは辛い状況だ。

一部のデータでは、食品EC市場で30%のシェアを持っていると言われているが、食品市場におけるEC比率は、僅か5.5%の為、ボリュームは小さい。また、2018年に137億ドルという莫大な値段で買収したホールフーズも、市場シェアは僅か2%だ。

これは、首位を独走するウォルマートの26%という数字には、遠く及ばない。

店舗数においてホールフーズは、現在全米に479店舗。
対するウォルマートは、4750店舗、2位のクローガーでさえ2800店舗を有している。
彼らは、この店舗網を活用してAmazon追撃に、本格的に動き出した

・逆襲のウォルマート

近年、ウォルマートはジェット・ドット・コムを始め、様々なEコマース企業の買収を行っている。そして、本業の食品分野を強化する為に、多くの投資を行っているのだ。
彼らの最大の武器は、全米の9割の人口を半径10マイル(16㎞)に捉える店舗網だ。
それを活用する事で、打倒アマゾンに動き出した。

現在、米国・中国では多くの小売業が専用の『ストアアプリ』を開発している。
これは、単にネット注文のツールとしてでは無く、様々な状況提供を始め、自分でQRコードをスキャンする事で、レジに並ばず決済が出来たり、アプリに買いたい商品の情報を登録しておくと、店舗内で、それらを購入する最適のルートを案内してくれるなど、様々な機能を有している。

・AR(拡張現実)機能を利用したナビシステム。カメラで実際の店内を映すと、緑のラインで進むべきルートを案内してくれる。

・商品のバーコードをスキャンする事でレジに並ばず、決済が可能。

現在、彼らが注力しているのはネットで注文して、店舗で受け取れるというシステムだ。米国では、スーパー自体が巨大で、買い物自体が重労働!? なのだ。

・カーブサイド・ピックアップ。

米国の多くのスーパーが導入しているのが、カーブサイド・ピックアップだ。
内容は、スーパー版のドライブスルーだと言える。利用者は、予めネットで商品を注文する。ピッキングが終わり次第、アプリ経由で通知が届くので、利用者は、それからクルマでスーパーに向かえば良い。

到着後、所定の位置に車を停めると、店員がやってきて商品をクルマのトランクに入れてくれる。利用者は、車を降りる事無く買い物が出来てしまう仕組みだ。

・ピックアップ・タワー

ピックアップ・タワーとは、カーブサイド・ピックアップ同様、予めネットで注文した商品を、店員がピックアップ後、このタワー内に入れておいてくれる。
利用者は、通知される暗証番号を入力する事で、商品が受け取れるシステムになっている。


店舗によっては、駐車場内に専用の倉庫を設ける事で、24時間商品を取り出せるシステムを採用する。

・更なる新業態の出現。

これら大手スーパーと並び、彼らのライバルとなるのがインスタカートドアダッシュという買い物代行業者の存在だ。買い物代行業と言うと、何か便利屋のような印象を持ってしまうが、彼らは、商品の紹介から決済・そしてデリバリーまでをパッケージングで提供するIT企業だ。自前でネットのプラットフォームを構築できない中小のスーパーにとって、彼は非常に強い味方と言えるのだ。

このように、食品市場の動向の如何にとっては、Amazonは現在の地位を失う可能性さえ秘めている。私達が忘れてはいけない点は、EC化の進む米国でさえ小売の中でEコマースのシェアは、僅か15%だという事だ。つまり、マスコミで言われている以上に実店舗は強いという事だ。

実店舗の開発を進めるAmazonと、Eコマースに進出する実店舗。コストがより掛かるのは、実店舗の開発の方だ。既にAmazonは、2019年末にもロサンゼルスで食品チェーンを立ち上げると言う報道も存在するが、全米を網羅する店舗網を整備するには、数兆円という莫大な費用と時間が必要だ。

ジャック・マーが予言するオンラインとオフラインという定義が無くなった未来に於いて、業界地図が果たしてどうなっているのか、非常に興味が尽きない問題だと言える。

ただ、確実に言える事は流通の重要度と在庫の最適化、この2つが勝敗を分ける要因となり、その達成の為に、如何にテクノロジーを駆使するか、その事が問われている様に感じるのである。