ソフトバンクGの苦悩。見えないライドシェア事業の黒字化。


今年5月ニューヨーク証券取引所に新規上場を果たしたUberは、現実の厳しさを思い知らされる事になる。主要株主であるソフトバンク・ビジョンファンドが上場前に査定した企業価値1000億ドルに対し、市場の判断は697億ドルと大きなギャップが、露わになってしまったのだ。

その後は、更に株価は下がり続け、同社の含み益は下降の一途を辿っている。世界中の主要なライドシェア企業の筆頭株主を務める同社にとって、これは非常に頭の痛い問題だと言える。

ウーバーが描く未来では、人々は個人で車を所有しない。
もはや、移動はサービスになり、そのプラットフォームの中心にはライドシェア企業が居る。恐らく、その未来は間違いないだろう。しかし、問題は同社が黒字化する日は来るのか?という点にある。

現状、Uberの37億ドルを筆頭に、概ね各社10億ドルを超える損失を毎年計上している。その大きな要因が、競争の激化だ。Uberが約10年前にサービスを開始した当初は、スマートフォンで黒い車を手配する利便性を売りに、タクシーより遥かに高い料金を課していた。しかし、2012年にリフトが低価格で参入を果たすと、それにUberも追随。果てしない消耗戦を現在に於いても続けている。このような状況が世界中で散見される要因は、ライドシェア事業自体に、資本以外の参入障壁が殆ど存在しない点にある。

そして、それらライドシェア企業の資金の出所は、どれもソフトバンクに他ならない。
つまり、ソフトバンク傘下の企業同士がお互いに首を絞め合い、自らを窮地に陥れるような状況が続いているのだ。
特にUberが重要視する南米では、中国のDiDiとUberが日本市場と同様に真っ向から対決する事態に発展しており、インドやオーストラリアでもUberは、オラ(ソフトバンクが30%の株式を保有)とインドネシアではGrabと消耗戦を展開している。


そんな中、現在急成長している分野が出前代行業であるUberイーツだ。
IPOに向けた目論見書に於いて、同社は『ウーバー・イーツ』こそが、重点投資分野である事を明確にしている。実際、このテイク・アウト市場の規模は急激に成長しており、現在の市場規模で30兆1200億円に及ぶと試算されており、中でもネット注文率は昨年の7%から、2028年には30%に達するとされている。

ただ、こちらに関しても盤石とは言い難く、ドアダッシュやクラブハブと言った強豪押され、Uberは業界3位の座に甘んじている。業界内での価格競争も激しくなる一方で、大手チェーンとの契約では、大幅なディスカウントを迫られているのが現状だ。


毎年、莫大な額の赤字を計上しながらも潤沢な資金を集められたのは、その成長力に支えられてきたからだ。ただ近年、その成長に限りが見え始めた。

昨年10-12月期売上高は22億8000万ドルと、半年前から殆ど増えていなかった。その上、ウーバーイーツの売上高は14%減の1億6500万ドルだったのだ。

シリコンバレーでは、利益率がマイナスなのは珍しい事では無い。ただ、最低限の問題として彼らは、事業が存続可能であるという事を示す必要がある。


結局のところライドシェア事業の黒字化には、料金の値上げと運転手へのインセンティブの値下げしか無い。ただ現状は、サービスがコモディティ化してしまい差別化が困難な為に、価格での訴求以外の方法が無いというのが実情だ。その為、この事業の継続の鍵は、自動運転技術の確立に掛かっていると言える。

ソフトバンクGのCEOである孫正義氏にとって、それまで資金が持つかどうか、という問題は死活問題だ。同氏にとって、毎年垂れ流される莫大な赤字を1社で支える事は既に不可能で、辛辣な言い方をすれば『自動運転』を餌に、どれだけ投資家を呼び込めるかに掛かっている。


ただ、これにも大きな問題が付き纏う。

そもそも、ライドシェアは都会向けのサービスだ。郊外に住み頻繁に車を利用する層には、自動車を所有する方が遥かに安上がりなのだ。
(米国では70%の国民が郊外に居住している。)

人や自動車の多い都会では、かなり高度な自動運転技術が要求される。
これは、レーダーやカメラの精度は勿論、簡単にはダウンしない強固なシステムが求められるのだ。一時は間近のように言われた同技術も、最近は専門家から悲観的な意見が多く聞かれるようになった。特に、以前Uberが引き起こした自動運転車による死亡事故は、衝撃的な映像と共に世界を駆け巡り、世論を一変させてしまった。


孫正義氏にとって、今後はかなりシビアな舵取りが要求される。

Uberが上場する前であれば、新たな出資は比較的容易な事であった。それは、上場により投資がペイする事を投資家に納得させる事が出来たからだ。しかし、一旦株価と言う形で価値が確定した企業に対しての出資を、投資家に納得させる事は容易ではない。
そもそもビジョン・ファンドは、未上場のユニコーン企業に対して投資を行うファンドなのだ。

仮にビジョン・ファンドでの投資に対し拒否権が発動された場合は、ソフトバンクG単体での投資を迫られる可能性すらある。なぜなら、Uberの失敗は世界中のライドシェア全体の企業価値を押し下げる可能性があるからだ。
(実際、Weworkへの追加出資はアラブ側が拒否権を発動した為、大幅な減額が行われた。)

ソフトバンクGにとって、ライドシェア事業のマネタイズは急務だと言える。
既に時代は転換期を迎えており、以前ほど容易に資金を調達できる環境は終わりつつある為だ。
多くの事業が失敗する要因に、時代が早過ぎたと言うものは珍しくない。ライドシェアがそうならない為にも、時間こそが何よりも重要なファクターだと言える。
ソフトバンクは、引き返すには遅すぎる程、同事業に深くコミットしている。この先、勝負師と言われる孫正義氏が、どういった手腕を発揮するのか注意深く見守る必要がある。