中国のスターバックスが、ニューリテールに特化した一号店を開店。


今月、北京の金融街の一角にスターバックスの新店舗『スターバックス・NOW』が開店した。

且つて、ジャック・マー氏が提唱したニューリテール(新しい小売り)が進む中国で、スターバックス社は、その対応の遅れから同業他社であるラッキン・コーヒーの急激な猛追を受ける事になる。具体的には、スマホ決済(モバイル・オーダー)とデリバリーの導入を指すが、中国では高級品であるコーヒーを買うのに、レジで行列を作らなければならない体験に、利用者は不満を感じていたのだ。


そこに目を付けたのが新興企業のラッキン・コーヒーだ。

彼らは、店舗から注文カウンターを無くし、スマホからしか注文出来ないシステムを導入。テイクアウトとデリバリー中心のビジネスモデルを作り上げたのだ。それにより、飲食スペースを縮小し、より低コストでの店舗開発が可能になった。
そこで浮いたコストで、スターバックスより高品質なコーヒー豆を導入し、彼らより2割安い価格で売り出す戦略が、彼らの特徴だと言える。

その結果、起業から僅か1年で2000店舗の開店に漕ぎつけた同社は、今年末には4500店舗まで拡大する予定で、中国進出後20年間で3600店舗を構築したスターバックス社を抜き去る事に成功した。

今回スターバックス社は、アリババとタッグを組む事で、モバイル・オーダーと敏速なデリバリー(アリババ傘下のデリバリー企業『ウーラマ』が担当)に特化した専門店を作り出し、ラッキン・コーヒーを迎え撃つ形になる。


現在、小売りの世界で最先端を走るのは、間違いなく中国だ。

注文後、30分以内に配達してくれる生鮮ECの『フーマ・フレッシュ』を筆頭に、各社が凌ぎを削っている。その核となるのが電子決済(モバイル・オーダー)と物流だと言える。

小売店がオムニチャネル化を進める上で、最も大きな壁として立ちはだかるのが物流だ。
そもそもオムニチャネルとは、まるでリアル店舗で買い物するようにEコマースを活用出来る方法論だ。その為には、商品が手元に届くまでの時間の壁は、何としても取り払わなければならない存在だと言えるのだ。


米国は、この課題解決の方法が技術偏重過ぎるところがある。
つまり、最先端のテクノロジーを用いないならば、出資する価値は無い、というマインド・セットが存在するのだ。結果的に高コストな体質となり、どうしてもスピードも遅くなってしまう。

一方、中国は違う。
ハイテクは勿論必要だが、足りない所は、ローテクとの組み合わせや人海戦術で切り抜け、走りながら改善すれば良い、という合理的精神を持ち合わせている。
なぜなら中国では、新しいビジネスが生まれると、途端にそれを真似する人間が出て来る。アイデアがあれば、直ぐに走り出さなければ、中国で生き抜く事は出来ないのだ。この事が、他国には無いスピード感を生み出している。


中国のコーヒー市場は、ちょっと特異だ。

年間15%で伸びる急成長市場であるが、それを支えているのが35歳以下の女性なのだ。
食品デリバリーを行う美団が実施したアンケートによると、同市場の8割近くを35歳以下の人口が占めている。そして、そのうちの7割が女性なのだ。一般的に日本では、コーヒーを好んで飲むのは、中年の男性というイメージがある。しかし、中国では、流行に敏感で、海外の文化に対して抵抗の無い若者層が、市場を引っ張っているのだ。


また、中国の若い女性は、日本以上にSNSでアピール出来るか、という体験消費の側面が強い。
そこで、スターバックスがデリバリー中心のニューリテール店舗と、もう1本の柱が、『スターバックス・リザーブ・ロースタリー』だ。


この上海に出来た新店舗は、2700平米という通常のコーヒー店では、有り得ない敷地面積を有している。ここでは、世界中から集められた稀少な生豆を焙煎し、ブレンド、パッケージするまでを見る事が出来る体験型店舗だ。


この広大な店舗には、27mの長さを誇る巨大カウンターを始め、5つのカウンターが存在する。
そこでは、様々な抽出法で煎れられるコーヒーを始め、それに合うチョコレートやスイーツ、また紅茶や緑茶、アルコールまでもが提供されている。

同店を一日に訪れる利用者は、週末には8000~1万人にもなる。

ただ、不思議な事に、それだけの集客が有りながらレジ周辺などを含め、行列がどこにも存在しないのだ。実は、店舗を訪れる客の8割以上がモバイル・ペイメントを活用しており、キャッシュレスでオーダーを行っている。商品が出来上がると、専用アプリに通知が行く為、それまでの間は店舗内を回遊したり、ストレス無く待つ事が出来る仕組みになっている。


元来、店舗をサードプレース(家庭でも職場でも無い第3の場所)として、空間を重視してきたスターバックス社にとって、デリバリーの導入は、その理念と対立する存在だった。ただ、競合の躍進を目にして方針転換を迫られた事になる。

今回の新店舗の成果によっては、デリバリーを中心とした小規模店舗の開発が加速する可能性もあり、今後の戦略を注意深く見て行く必要がある。

スターバックス社にとって、今や中国は、本国アメリカを凌ぐ重要市場となっており、2020年までに6000店舗まで増やす計画を発表している。それは、中国のコーヒー市場は急速な成長を見せているが、その1人当たりの消費量で見ると、日本が年間190杯、米国が200杯に対し、中国はまだ0.5杯と、強力な伸びしろを有している事が分かる。


アリババと言う強力なパートナーを得たスターバックス社にとって、最大のリスクは政治問題だ。
過熱する対立関係から、スターバックスやアップルをアメリカの象徴と捉え、不買運動に発展する可能性は否定出来ないからだ。

ただ、ラッキン・コーヒーの拡大戦略を見る限り、スターバックスに猶予は無いと言える。ここで後れを取る事は、中国でのプレゼンスの低下を意味するからだ。

一方において、トランプにとって中国を叩く事は、米国人のナショナリズムを刺激し、着実に再選に繋がる好材料だと言える。自国の大統領が最大のボトルネックとなるという、最大の皮肉に対し、スターバックス社に出来る事は非常に限られていると言えるのだ。

このように、スターバックス社にとって中国市場は、莫大な可能性とリスクを併せ持つ、謂わば『諸刃の剣』とも言える。ここで、如何に成果を作り出せるか、そのことが同社の命運を決めると言えるのだ。