米中経済摩擦の本質とは?

歴史的に見て確実に言える事がある。
それは米国は、自らより勝るスーパーパワーの存在を決して許さないという事だ。
そして、その為には米国は戦争を始め、あらゆる手段を厭わない。米ソ冷戦はもちろんであるが、実は過去に於いては日本もその標的となった経験を持つ。
戦後、急激に経済力を付けた日本は徐々に米国を脅かす経済力を持つようになった。

そして、1965年には貿易収支が逆転。その後、米国は慢性的な貿易赤字を生む事になる。

1985年にはその額は遂に500億ドルを突破。まさに日本は米国の『虎の尾』を踏んでしまったのだ。それにより、FBIが同盟国をおとり捜査で引っ掛けるという前代未聞の『IBM事件』など、手段を選ばない攻勢が続く。そして最終的には、為替システムを根底から覆すと言う『力技』まで駆使し、日本を駆逐してしまった。


そして、近年新たな脅威として台頭してきたのが中国の存在だ。
数々の敵を駆逐して米国であるが、今回は少し勝手が違う。それは、米国自身に明らかな『衰え』が見え始めている点だ。

第2次大戦後、米国は『世界の警察』という盤石の地位を形成していた。
しかし、今の米国に最早その力は無い。今や恒久的となった経常赤字により弱きった体力は、リーマンショックという『トドメ』とも言えるバブル崩壊で、他国の事を気にする余裕は無くなってしまった。


そのリーマンショックにより疲弊した世界を尻目に急激な成長を遂げたのが中国だ。

彼らは、この好機を見逃さなかった。

彼らがこの事件を利用して急激な発展を成し得たのは、端的に言うと『ズル』をしたのだ。具体的には、中国国内に参入を希望する企業に対して、単独では許さず現地企業との合弁を強制した。これにより、日本の新幹線技術に代表され様々な技術が中国にもたらされる事になる。


今回の米中摩擦が、今までと決定的に違う点は米国が弱体化している事にある。

つまり、米国が弱くなったことにより相対的に中国が台頭してきたのだ。

そして、その隙を彼らにもたらしたのは『リーマンショック』だ。米国は、ゴミのような債権にAAAの格付けを付ける、謂わば金融詐欺的な手法を駆使する事により、世界中を不況の渦の中に引きずり込み、僅か数年で100年に一度の不況と言われる大恐慌を作り出してしまった。

本来であれば、中国が強制した『不当とも言える条件』を呑むなど論外だ。
ただ、この恐慌により世界は謂わば『藁をも掴む』ような状況に追い込まれ、各企業は次々と中国参入を開始することになる。

ビジネスでの戦場は過酷だ。
隙を見せると必ず相手につけ込まれる。そして、中国はこの瞬間を見逃さず『最適』な手を打ってきた。つまり、私達がいくら感情的に割り切れなくても、中国の作戦勝ちである事は紛れも無い真実なのである。これにより、中国は歴史的に見ても類がない程の急激な成長を短期間で成し遂げたのだ。

ただ、忘れてはならないのが、この苦境を作り出したのは他でもない米国自身だという事だ。


今回の米中摩擦は、イデオロギーの問題では無い。明確な覇権争いだ。

そして、そのど真ん中にあるのが5Gであり、人工知能だ。この分野では、中国は既にアメリカの半歩先を行っている。中国は、その重要性を正確に認識し資金を集中させ、国家ぐるみで推進をしているのに対し、米国は権利関係などが複雑になり過ぎて、企業間で訴訟を繰り返しスピード感を無くしている。また、今まで米国の推進力であった『多様性』は失われつつあり、貧富の差は急激に拡大。資本主義の行き過ぎによるデメリットが、国家を蝕みつつある。

結果的に、物価が高騰したシリコンバレーでは年収が800万円でも満足な家を借りられず、車の中で生活しなければならい有様だ。当たり前だが、シリコンバレーの全ての人がIT企業で高給を貰っている訳では無い。そこでは教師やレストランなどで働く、普通の人が居なければ町は形成出来ないのだ。このような中、現在シリコンバレーでは多くの技術者が流出している。そして、その受け皿になっているのが『中国』だ。


今の米国は、政治的に明らかに貧弱だ。

明確なビジョンを打ち出せないトランプは、只々中国への恐怖心を煽り、対決色を強める事で再選を勝ち取ろうとしている。これは、正直かなり危険な思想だ。米国人は、且つて『羊の国』とも呼ばれたように、非常に扇動的な政治体制に弱い国民性を持っている。特に現代のような情報が錯綜する時代になると、人間は合理性を無視して、自分が信じたい物だけを信じるという罠に陥りやすい。どんな馬鹿げた思想でも、それを正当化する情報がネット上には溢れている為だ。それを巧みに利用しているのは外ならぬトランプ自身であるのだが、当たり前だが、物事はファクト・ベースでないと正常な進化は有り得ないと言える。


アメリカは今、建国以来最大の危機に瀕している。

歴史は常に栄枯盛衰を繰り返すが、米国民はその事を正確に理解しているには見えない。この危機の時代の指導者を決める選挙が、トランプとバイデンという2人の老人では明らかに小粒過ぎる。

私が危惧するのは、仮に米国の地位が揺らいだ時に、謂わば『死なば諸共』と全世界を巻き込んだ混沌に引きずり込まれる未来だ。そして、この事は中国についても言える。今の共産党独裁が未来永劫に続くとは思えないからだ。


今後、大統領選挙が近づくにつれ米中の摩擦が急激に悪化するのは避けられないと言える。
今、ネット上を見ていると嫌中・親米の意見が異様に多いように思う。ただ、実際問題において中国は、既に無視出来ない国力を持っている。そして、忘れてはならないのは、世界中の人口の5人に1人は中国人であり、世界中に拡散する中国系の人を合わせると、それ以上の勢力を形成しているという点だ。当たり前だが、トランプの言うように関係を断つなど出来る筈もない事は、子供でも理解出来る。既に私達の廻りのあらゆる製品や企業は、中国のエコシステムと深く結びついているのだ。中国が、そのエコシステムを構築出来るのは、単に人件費が安いとかの問題では無く、その資源と確かな技術を潤沢に保持しているからに他ならない。

良くネット上では周辺国に工場を移転すれば良い、など安易な考えを目にするが、物事はそんなに簡単には進まない。工場を作るには当然、質の良い労働者だけでなく、設備・停電しない電力、そして、原料や製品を港まで輸送する為の物流・港湾インフラ・など多くの物が必要だ。その上、その工場は市場から出来る限り近く無ければならない。そのエコシステムの経済合理性が無視される時、それは当然だが世界中の消費者が影響を受ける事を忘れてはいけない。

日本に今必要なのは、『したたかさ』だ。トランプと習近平、自国の未来を託すにはどちらも明らかに役不足な存在だ。

米国にとって日本は、地政学的に見ても中国に近く戦略拠点としての価値は、今まで以上に飛躍するのは確実だ。その関係の中で、日本は自国にとって何が最適なのかを真剣に考える必要がある。そして、その為に必要な事は、まず相手を良く知る事だ。多くの日本人は、未だ中国を10年前のステレオタイプ化されたイメージを持っている。まず、自分の眼で現状をしっかり把握するべきだ。前にも述べたが、自分の信じたい物を信じるのでは無く、ファクトベースでだ。相手の力を正確に把握してこそ、ようやく戦えるという事を、決して忘れてはならない。